第3話
「な、何。どうした?」
飛び出して部屋の外へ出ると、大和が階段を駆け降りようと、しているのが見えた。そのあとを先朝陽先輩が追いかけていく。
僕は遅れてあとを追いかけ下に向かった。
「落ち着けよ、何があった?」
大和がベソをかきながら、ドアをこじ開けようとしている、けれどドアは少し揺れるだけでまったく開く気配はない。
閉じ込められた?
この時、はじめて自分達が閉じ込められたことに気づいた。
悠樹が?
いや、んなわけない。冗談にしたって質が悪い。
噂はほんと?
そんな馬鹿な。
「ってかなんで叫んだ?」
少しでも落ち着こうと口にしたのは、大和がそもそも悲鳴をあげ、どうして駆け降りたのか。
そうやって冷静なふりでもしないとおかしくなりそうな気分だった。
「
どういうことかというと階段からみて片側に2部屋もう片側に3部屋ある。で、僕は3部屋目に悠樹を追いかけていった。ところが反対側の奥かろ悠樹が出てきた。階段が間にあるから当然、朝陽先輩と大和が移動するのを見ていないとおかしい。
実際にどうやってか3部屋目からではなく、反対側の奥つまり1部屋目から出てきて、2部屋目に入って行くのが大和達の目に見えた。
あまりのわけのわからない状況に、大和は気が動転して逃げ出そうとしたということらしい。朝陽先輩も同じ状況を見たらしい。
ただ、僕らが勘違いしていた可能性もなくはない。何故かドアが開かずに出れないことは、置いておくことにした。誰かのいたずらの可能性もある。最悪、スマホがあるから助けを呼べばいい。
それより悠樹を探さないと、そう思った。僕らが単に3部屋目に入っていったと思い違いした可能性を考えてのこと。
「おい、悠樹?」
おそるおそる3人でふたりが入って行くのを見た2部屋目を開けて声をかける。3人で移動した理由は、大和がひとりで階段の前で待ってるのが怖いと言って泣き出したから。
「もう3部屋目に移動したのかもな」
朝陽先輩がそう呟いて、そちらへにらみつけるように目を向ける。僕は2部屋目の中へ踏み入れて悠樹を探す。
「悠樹いるなら返事しろよ」
声をあげ懐中電灯を部屋中に向け、室内を見渡してみる、が、やはり誰もいない。大和がベソをかきながら僕の背中にくっついていて動きづらいし、正直うざいし邪魔。
「マジでふざけんのなしだからな。聞いてんなら返信しろよー」
そう呟いて探してみるもやはり居ない。
「いねぇの?」
「いい加減にしねぇと置いて帰るからな」
適当に言葉を投げて様子を窺う。悠樹はどこ行ったんだろうか。大和が小さく「ヒィッ」と声をあげ指さした。
「んだよ、何?」
ふり返って問いかける、けど指さして震えたまま何も言わない。仕方なくそちらへ懐中電灯のライトをあてみる。
「何、これ?」
濡れた足跡、しかも途切れていてどこにもつながってはいない、つまり、始まりと最後が続いていない。ほんの少し前に濡れた足で歩いたとしか言いようがない。
途中から途中までしかない足跡。それもかなり大きい足、僕らよりも大きい。成人男性でもここまで大きい足はないだろう。
考えても仕方がない、それより悠樹だ。あいつどこいった。部屋を出て朝陽先輩と合流し移動する。朝陽先輩いわく、いまのところ悠樹どころか誰も見かけてない。ほんとなら各人が1部屋ずつ見る方がはやく済むからと思ったけれど、大和が嫌がって聞かないせいで僕と大和、朝陽先輩にわかれて部屋を見ることになった。
奥の5部屋目を僕ら、3部屋目を朝陽先輩。4部屋目を先に担当した部屋を済んだ方が見ることになった。
「おい、あんまりくっつくなよ! 歩きづらい」
もつれて転びそうだと思うくらい、かといって、足蹴にするわけにもいかない。少しだけ距離をあけて大和が続く形でなんとか歩くことに成功した。
やはり部屋には、何も代わり映えがしなくて誰もいそうになかった。この頃になると心配よりも苛立ちが勝っていた。
「悠樹、どこだよ! おまえの勝ちでいいからさっさと出てこいよ」
もぬけの殻の部屋、無論なにもない。代わり映えなんてものはない。剥き出しの壁、汚れた床。トイレと浴室。汚れて見えない洗面台。
部屋を出ると朝陽先輩は先に3部屋目を済んでいたらしく、4部屋目から出てきたところだった。
「こっちいなかったです」
「こっちもいなかった」
どうやら二階にはもう居ないらしい、もしかすれば、大和が下に逃げている間に三階へ上がったのかもしれない。
「朝陽先輩、3部屋目だけタンスと写真立てありましたね、前の人が置いてったんですかね?」
ふと、階段を上がりながら問いかける。あれはなんだったんだろうか。どうしてマジックペンで黒く塗りつぶしていたのだろう、と。
「いや、殺風景。んなもんなかったけど?」
首をひねってこちらを見る目は「おまえ頭どうかしたのか?」と言いたげだった。
「いやいや。あったじゃないですか! マジックペンで黒く塗りつぶされた写真立てと、やけに古いタンスが。からかってます?」
もしかすると僕をからかっているのではという疑問が首をもたげた。
「そんなものなかったけど?」
心底、不思議そうに呟く。
「ありましたって!」
朝陽先輩を押しのけ二階へ降りて3部屋目を覗く。あった、絶対にあった、それなのに。それなのに⋯⋯⋯⋯。どこにもなかった。
「おい、湊どうした?」
あとから階段を下りてきた朝陽先輩が僕の前に立ってそう言って、大和が遅れて下りてきた。
「絶対あったのに、あったんです。嘘なんかじゃなくてあったんですよ」
自信が揺らいだ。
「わ、わかったって。それより日向だろ!」
諭す朝陽先輩の言い方は、信じているわけじゃない。きっと変な奴だと思っているに違いない。階段を上がり三階へ向かった。
大和や朝陽先輩の、様子、態度に、関する違和感。今すぐにでもここから逃げ出したかった、でも、今すぐに逃げ出してしまい、結果として、悠樹を放って帰るのはきっと後悔する。
悠樹が僕を置いてきぼりにするわけがない、もしかしたら、酷い怪我をして助けも呼べないのかもしれない。都合の良い理由ばかり探す。
「悠樹! どこだ?」
廊下には誰もいない。今度は僕、朝陽先輩と大和にわかれて部屋を探すことにした。
1部屋目と2部屋目を僕、3部屋目から5部屋目を朝陽先輩達が担当することにした。それぞれ奥から僕は1部屋目、朝陽先輩達は5部屋目から順番に見るそう決めた。
──ギィーッ、ギィーッ、ギィーーッ。
部屋を開けるとドアが耳障りな音を立てた、金具が錆ついているんだろう。不快感を煽るには充分だった。
そういえば、足音がしてたのも三階だ。そう思ったら、とたんに寒い気がしてきた。もちろん気のせいだと思う。
──コツッコツッ。コツッコツッ。
あの足音を思い出す度に脳裏に浮かんで消えない妄想。
何よりも。
──ギィーッ。ギィーッ。ギィーーッ。
という音が良くない妄想を加速させる。誰かが、首を吊って椅子の背に足先があたるそんな創造、いや、妄想だった。
もちろんそんなものはどこにもない。悠樹は、どうして見つからないんだろうか。どうしてばかりが胸をついた。
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