第3話 過去の記憶
なんとか鼓動を抑えながら家に着くと、丁度母親が帰って来たところだった。
「あれ?どこに行ってたの?」
「そこまで送ってただけ」
それから足早に自室へと向かい、しまったアルバムを手に取り中を覗く。
自分をアルバムの中に見つけ、そこから視線を下ろしていくとそれを見つけた。
つい先程まで見ていた顔とそっくりの写真、高校で何度も見たものと同じ名前、
歩いていた時に見たものと同じ後ろ姿、小学校高学年の頃の記憶が蘇る。
先生が「みんな静かにしてねー」と言って教室が静まり返った。
すると教室のドアから一人の女の子か現れる。
「転校生を紹介します」と先生が言い、黒板に名前を書き始める。
それからその転校生が挨拶をして、空いている僕の隣の席に座った。
授業が始まり気になって隣を見ると、その転校生はノートを広げて必死に黒板に書かれた内容を写していた。
「教科書の五十三ページを開いてねー」
そんな指示が出された時、あたふたしている姿を見て思い切って声をかける。
「教科書無いの?(小声)」
いきなり声をかけたからか、驚いた様子でこちらを見た後に小さく頷いた。
机を寄せ、教科書をその間に置く。
授業が終わり、片付けをしていると肩を突かれた。その方向見ると、モジモジとしながらなにか言いたげな転校生がいる。
「あ、ありがとう...教科書、まだ無くて...」
「いいよ別に、な...なんでも頼って」
と小学生ながらに格好をつけてしまった。けれどそれが二人に変化をもたらした。
「お...おはよう」
「おう、おはよう」
朝の挨拶をするようになった。
教科書が来るまでは授業が始まる前に転校生から机を寄せてきた。
新しい小学校に慣れてからもそれなりには話す仲になっていて、周りはそれを見て「付き合ってるんだー」とからかわれた。
恥ずかしさから必死に否定をしていたのに対し、少し顔を赤らめてモジモジしている姿に、幼い恋心は大きく揺さぶられた。
しかし、小学校の頃の自分には上手く理解ができず、ただ仲の良い友達という関係のまま卒業を迎えてしまう。
卒業までの十数ヶ月間もあれば転校生も転校生なりに友人関係を築き、最後の方は話すことも減っていた。だから卒業式でも特に話そうとは思わなかった。
それに、順当に行けば中学校も同じ所のはずなので、それが“別れ”の時だとは思ってもいなかった。
その転校生がまたどこかへ転校、というよりも引っ越しをしたということを知ったのは中学に入学してすぐのことだった。
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