第12話 サンドイッチ

 鍛錬場で剣の訓練をしながら、乱れた心を研いでいたマルス。

 いつの間にか夕暮れになっていて、振り返るとそこにはノヴァの姿があった。


(まさか……見られていた? 俺の独り言を聞いていたのか……!?)


 もしかして……見張られていたのだろうか?

 マルスの心に焦りが生じて、どんどん大きくなっていく。


「えっと……昼食の時間になってもマルス様が戻ってこなかったもので。こちらで見学させていただきました」


「見学って……まさか、昼からずっと?」


「はい……その、監視するから傍にいるようにと言われましたし……」


「ウッ……」


 マルスが言葉を詰まらせた。

 確かに、監視すると言った。マルスがその口で。

 ノヴァは律義に監視しやすい位置に座ってくれていたというのか。


(こ、これでは、どちらが監視しているのかわからないのではないか……!)


「お昼ごはん、お持ちしたんですけど……もうじき夕食の時間ですね。声をかけようかと思ったんですけど、とても熱心に剣を振っていたもので……」


 椅子に座ったノヴァの膝にはバスケットが置かれている。


「あ、ああ……昼食か」


「やっぱり、声をかけた方が良かったですよね……ごめんなさい」


「い、いやいやいやっ! 集中して時間を忘れていた俺が全面的に悪い。謝罪などしないでもらいたい!」


 マルスがバスケットを受け取る。


「俺はそれなりに食べられる方だからな! すぐに夕食でも問題はない!」


 バスケットを開けると、中に入っていたのはサンドイッチである。

 野菜や肉を挟んだサンドイッチが二人分、詰められていた。


「二人分……まさか……!?」


 マルスが顔を青ざめさせながら、ノヴァの顔を見やる。

 すると、ノヴァは申し訳なさそうな表情のまま小さく首肯した。


「あ、はい。私の分ですね」


「た、食べていないのか!? 昼食をっ!?」


 まさか、マルスに遠慮して食べなかったというのだろうか。

 自分が訓練に集中していたせいでノヴァが昼食を食べ損ねたのかと、マルスはガクガクと顎を震わせる。


「あ、大丈夫です。私は慣れていますから」


「な、慣れている……?」


「家ではお昼は食べていませんでしたから。朝か夕方か、どちらかしかもらっていませんでしたし」


「グヌ……」


 飛び出てきた不幸エピソード。

 罪悪感に凍りついていたマルスの頭がカッと熱くなる。


(食事もまともに……虫を食わせたりもしていたようだし、あの夫婦は本当に殺されたいのか……!?)


「……すまない。俺のせいで」


「食べなかったのは私の意思ですから、どうぞお気になさらず。それよりも……食べてはくだささらないのですか?」


「ム……?」


 ノヴァがどこかソワソワとしているような気がする。

 改めてバスケットに視線を落とすと、サンドイッチはどことなく歪な形をしていた。

 屋敷のコックであれば、こんな不格好な形にはなっていないのだが……?


「まさか……これは君の手作りなのか?」


「…………はい」


 ノヴァが恥ずかしそうに目を伏せた。


「お世話になっているのですから、何かしなくてはと思いまして……お願いして、お手伝いをさせていただいたのです……」


「そんな、気を遣わなくても……」


「ご迷惑だったでしょうか? サンドイッチも上手く切れず、形が崩れてしまって……」


「いただきますっ……!」


 マルスがサンドイッチの一つを掴んで、口に放り込む。


「あ……」


「美味い。とても美味いぞ!」


 マルスが絶賛する。

 お世辞ではない。油で揚げた肉を挟んでマスタードを付けた具材のサンドイッチはマルス好みの味付けである。


「厨房のコックさんに教わったんです……マルス様が好きだと言っていたので」


「そうなのか……美味いぞ。本当に感謝する」


「良かった、喜んでもらえて」


 ノヴァが両手を合わせて、嬉しそうにはにかんだ。

 二人は夕暮れの中、遅すぎる昼食を摂ることになった。


(せっかく考えがまとまったと思ったのに……また、心を乱されてしまった……)


 どうして、彼女ばかりが自分の心を掻き乱すのだろうか。

 マルスはどれだけ剣を振るっても解決しない疑問を抱えながら、ノヴァの手料理を口いっぱいに詰め込んだのであった。






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