第26話 『あなたのために、を包む袋』


金曜日の夜。

陽菜はランドセルの中から、ぐしゃっとなったプリントと一緒に、小さな紙切れを取り出した。


「ママ、これ……さきちゃんがくれたんだ」


「どれどれ?」


手渡されたのは、色鉛筆で描かれた“お花の絵”。

裏には、やわらかい字で「ひなちゃんへ いつもありがとう」と書かれていた。


「今日、ノート忘れてたら、“これあげるから気にしないで!”ってくれたの。

だから、わたしもお礼がしたいの」


「……そうだね。陽菜の“思い出袋”、さきちゃんにも作ってあげようか」


「うんっ!わたしが“デザイン担当”する!!」



《雑貨製作場》でページをめくると、**“ギフト用メモリーポーチ”**という項目が表示されていた。

サイズ、布地、ポケット数、メッセージタグ――すべてカスタマイズ可能。


陽菜が選んだのは、水色のキャンバス地に、小さな白いちょうちょが舞うデザイン。


「これは“やさしさが飛んでくる”感じにしたいの」


タグには、前に作った“ありがとうハンコ”と一緒に、陽菜の手書き文字が添えられた。


“たいせつなもの、だいじにしてね”



土曜日の朝。

陽菜はポーチに、自分が描いた花の絵と、きれいに消しゴムをかけた“にっこり顔の手紙”を入れて、そっとラッピングした。


リボンの色は、ちょっと大人っぽいミントグリーン。


「さきちゃん、びっくりしてくれるかな……ドキドキする」


「でも、それもプレゼントの一部だよ。“わくわく”って、ちゃんと伝わるから」


結月は、そっと陽菜の背中を押した。



その日の夕方。

ポーチは陽菜の手で、こっそりとさきちゃんの机の上に置かれた。


そして――日曜の昼すぎ。

さきちゃんから、家にこんな手紙が届いた。


「ひなちゃんへ。ポーチ、びっくりしたし、とってもうれしかった。

わたしも大事なもの、たくさん入れようと思う。ありがとう」


陽菜はその手紙を、自分の思い出ポーチにそっとしまいながら、にこっと笑った。


「ねぇママ、思い出袋ってさ……

“思い出をあげること”もできるんだね」


「そうだね。誰かのなかに“やさしい記憶”が残るって、素敵なことだと思うよ」



その夜。

食器を洗い終えた結月がリビングに戻ると、テーブルの上に、見覚えのない便箋が一枚置かれていた。


“結月へ”


それは、涼の字だった。


「思い出ポーチの中に、昔の手紙を見つけてくれたこと、うれしかったです。

あの頃の俺は、何を伝えるのも下手だったけど……

いまは、ちゃんと“ありがとう”を言えるようになったと思います。

これからも、君と、陽菜と、笑いながら暮らしていけたらいいな。」


文の最後には、こんな一行も添えられていた。


“P.S. 次の紅茶は、君の好きなアールグレイを淹れます。”


結月は、手紙を両手で包み込み、ぽつりとつぶやいた。


「ほんとに……あの頃も、いまも、変わらずやさしいなぁ……」



《雑貨製作場》の画面には、新しい表示が灯っていた。


『おくるポーチ(ギフト用)』

『手紙専用の小包パック』

『メッセージ用・一行便せんセット』


そして最後に――


“A little pouch can carry a big feeling.”

(小さな袋に、大きな気持ちをのせて)

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