第21話 『包むというやさしさ』
金曜日の夕暮れ。
陽菜が帰宅すると、テーブルの上に見慣れない布袋が置かれていた。
「わぁ、これなあに? なんか、すごくかわいい!」
「ふふ。これはね、“包むための袋”なんだよ。
中にプレゼントとか、お菓子とか、手紙とか……なんでも入れられるの」
「でもこの布、ママが前に“好き”って言ってたやつだよね?」
「うん。ちょっと和柄っぽいけど、やさしい色合いが気に入ってて。
ラッピングって、ただ包むだけじゃなくて……“大切にしてます”って気持ちを伝えるものなんだよ」
陽菜はじっと布袋を見つめ、ふと目を丸くした。
「ねぇ、これって、“また開けたくなる袋”ってかんじがする!」
「……それ、いい表現だね」
⸻
夜。
夕食後、結月は台所で後片づけを終えたところで、そっと涼のところへ。
「ねぇ、ちょっとだけこっち来てくれる?」
「ん? なになに? サプライズ?」
「……うん、まあそんな感じかな」
リビングのテーブルに座った涼の前に、結月はラッピングされた小箱をそっと差し出した。
和紙の質感を活かした、ほんのり桜色のラッピング。
シンプルな麻紐と、手作りのスタンプタグが添えられている。
「これ……?」
「お疲れさまって気持ち。
最近、忙しそうだったから、何かしてあげたくてね」
涼はゆっくりと紐を解き、包みを開ける。
中に入っていたのは――結月が《酒類製作場》で作ったりんごとシナモンの香りの甘口酒と、小さな木の杯。
「わ……これ、結月が作ったやつ?」
「うん。ちゃんと法律のことも調べたよ。家庭内の範囲で自家消費ならOKって確認したから。
これは売らない、あげない。あなた専用のお酒」
「……最高すぎる」
涼は静かに笑って、少し目を細める。
「ありがとう。なんか、久しぶりに“プレゼントをもらう”って気持ちになった」
「いつも頑張ってるの、ちゃんと見てるから。
そして私も、“あなたに支えられてる”って思ってるからね」
ふたりはしばらく静かに杯を傾けながら、ゆったりとした夜を過ごした。
⸻
その夜。
《雑貨製作場》の新しい項目に、小さなアイテムが追加されていた。
『夫婦ペアの木製カップ』
『思いを伝える一行カード』
『開けたくなるラッピング袋』
タグには、こう書かれている。
“Wrapping is not hiding. It’s revealing care.”
(包むことは、隠すことではなく、気づいてるよという気持ちの表れ)
結月はそっと、木のタグに指を添えた。
(……これからも、こういうやさしさを、かたちにしていけたらいいな)
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