第22話 『開けたくなるって、うれしいこと』
日曜日の朝。
春の陽ざしが窓から差し込む中、テーブルの上には、さまざまな素材が並んでいた。
クラフト紙、布の切れ端、手作りスタンプ、紐、ラベルタグ――
結月と陽菜は、まるで工作の時間のように、楽しそうに手を動かしていた。
「ママ、こうやって、リボンの先をくるんって巻くの可愛いよ!」
「いいね、それ“開けたくなる”感じがする。
ちょっとした“わくわく”を包むって、素敵だよね」
ふたりの目の前には、小さなクッキー缶がひとつ。
中には、《料理制作場》で作った“紅茶の葉入りクッキー”が、ぎっしりと詰められていた。
今回は、ご近所の優しいおばあちゃんに「ありがとう」を伝えるためのギフト。
⸻
「このあいだ、陽菜が道に落とした手袋を拾ってくれたの、覚えてる?」
「うん!“落とし物だよ”って笑ってくれた。すごくやさしい人だった」
「じゃあ、その気持ちを、クッキーと一緒に包もうね」
結月は、淡い桜模様の和紙にそっと缶をくるみ、
陽菜が作ったスタンプタグを添える。
“Thank you for your kindness.”
(やさしさを、ありがとう)
リボンの結び方は、真ん中で一度きゅっとしてから、わざと少しだけズラして結ぶ。
その“崩した感じ”が、なんだか自然でかわいい。
陽菜は袋にちょこんと花のシールを貼ってから、ふぅっと息を吐いた。
「これなら、“わーっ!”って開けてくれるかなぁ?」
「うん、きっと“どんなクッキーだろう”って、楽しみにしてくれるよ」
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その午後。
陽菜と結月は、少しだけ遠回りして散歩がてら、そのおばあちゃんの家のポストに、ラッピングを入れにいった。
インターホンは押さず、こっそり入れるのが“サプライズ”らしい。
「ドキドキするね~!」
「でも、それがまた楽しいんだよね。
開けたときの、びっくりした顔、ちょっとだけ想像しちゃう」
⸻
夕方。
家に戻った結月たちのスマホには、ひとつのメッセージが届いていた。
「まあまあ!こんなにかわいい贈り物、びっくりしちゃったわ。
ひなちゃんのスタンプがまた、かわいくて……大事に缶、使わせてもらいますね」
陽菜は、ソファに倒れ込んで、嬉しそうに笑った。
「やった~~~っ!サプライズ大成功~~!」
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その夜、《雑貨製作場》の棚に、またひとつ項目が増えた。
『ギフトラッピングのヒント帳』
ページを開くと、そこにはさまざまなラッピングの形やコツが描かれていた。
・“リボンを手紙にする方法”
・“一度だけ開けたくなる結び方”
・“香りで包む小袋”
・“布の端がちょっとはみ出す包み方は、気取らない優しさ”
そして一番最後のページには、こう書かれていた。
“包むということは、気持ちをそっと預けること”
“開けるその瞬間まで、やさしさは続いている”
結月は、胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。
(“開けたくなる”って、ただの包装じゃない。
“その人のことを想ってる”って気持ちごと包んでるんだ)
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