手紙
秋彦、 あなたの眼差しは、いつからか私を高いところに置いた。 華月庵の庭で、椿の影が揺れるあの頃から、あなたは私を完璧なものとして見た。 私がどんなに冷たくしても、どんなに傷つけても、あなたは三歩後ろでただ微笑んだ。 私はその眼差しに応えたかった。あなたが望む私でなければ、あなたは私を見失うと思ったから。
でも、秋彦、私はただの女だった。 あなたの手を取って、笑い合いたかった。 あの小鳥を放した日、あなたの声が私の心を初めて震わせた。 なのに、私はその心を隠した。あなたの望む姿を裏切るのが怖かったから。
この長屋で、あなたが私のそばで看病してくれた夜、 私はあなたの手に触れたかった。 「愛している」と、ただ一度、言ってみたかった。 でも、その言葉は私の喉でいつも凍りついた。 あなたが望む私は、愛など口にしないものだったから。
次第に、私はその眼差しを裏切れなくなった。 あなたの望む私を捨てれば、あなたの全てが崩れる気がした。 だから、私は選んだの。 あなたを自由にするために、私自身を地に落とすことを。 私が消えれば、あなたはもう私を追わなくていい。 ただの男として、生きてほしい。
秋彦、 この折り鶴があなたの手に届くなら、 私の名を、ただ一度、呼んでほしい。 琴音と、ただの女の名で。
華族の娘と使用人 @pChron
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