2.海に救われたPart5
司書さんの方を振り返るとそこには、髪を肩まで切った司書さんが立っていた。
「貴方のおかげか、図書館から出てみようと思いまして。せっかくなのでバッサリ切ってみたんですよ。似合ってますか?」
司書さんは妖艶に笑いながらそう言った。潮風になびく髪は、少し木の匂いがする。
「そういえば、先日は図書館を空けていてすみませんね。貴方の親御さんに呼ばれたもので。遺書、読みましたよ。まさか私に対しても書いてくださっているとは思いませんでしたよ。」
司書さんの声は少し涙ぐんでいる。
「虹宿魚が来るまで、少し話しませんか?」
司書さんは僕の隣りに座った。
「この村の伝承について書かれた本、見たんですね?机の上に放置されたのを見た時は驚きましたよ。」
僕は放置していたことを謝罪して、なぜあそこに置いてあったのかを訊ねた。
「あぁ、あそこに置いたの私なんですよ。伝承に書いてあった通り、この入り江で死んだ人は死の覚悟が決まるまで死ねません。そして、貴方の死亡推定時刻がちょうど、虹宿魚が現れる時間だったので、貴方の探究心があれば虹宿魚がどのような魚か知れなければ死ねないと思い、あそこに置きました。」
司書さんの言っていることは全て図星だった。
「それと、虹宿魚が何故、虹を宿しているのかも見ましたね?」
僕は頷いた。何故、虹宿魚が虹を宿しているのか。それは、虹があの世への道だからだ。虹宿魚はあの世への道標を作るために存在している。
月が空の頂点に達するまで、残り少しになってきた。
「もう、話せる時間が短くなってきましたね。図書館に毎日来てくださり、ありがとうございました。貴方のおかげで、私は図書館から踏み出す勇気をもらえて、貴方の最後をこうして、見届けられます。そして、親御さんからですが『愛してるよ。今まで気づいてあげられなくてごめんね。』、だそうです。」
司書さんは空を見上げながら、一筋の涙を流している。
僕も泣きそうなのを我慢していたのに、泣いてしまった。親が愛してくれるとは思わなかったし、司書さんが僕のことを大切に思ってくれていて嬉しかった。
「もう、時間みたいですね。」
眼の前には、虹宿魚がいる。静かに、僕の眼の前の水面下に。
「行ってらっしゃい。貴方と過ごした日々、楽しかったですよ。」
僕は司書さんに手を振り、虹宿魚に触れた。その瞬間、虹の橋が現れた。その橋を渡って、僕はあの世に行った。
死んでから、親が僕を愛してくれていたとわかって、司書さんも僕のことを気にかけてくれていることがわかった。
僕は死んでから救われたと感じた。
海が、僕を殺してくれた。
僕は「海に救われた」
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