気づくと朝になっていた。目を開けて自分の体を見ると何故か透けていた。そして、プカプカと海面に浮かぶ僕の体から僕がはみ出していた。

　その時、僕は死んでいると確信した。

　おそらく魂である僕は体から離れようとしたが一向に離れられず、時間だけが過ぎていった。

　そんなところに朝の散歩をしているお爺さんが僕の浮いている体を見つけて、慌てて引き上げた。

　救急車が来るまでお爺さんは僕の体を揺さぶり、声をかけ続けた。

「おい坊主！しっかりしろ！まだ若ぇじゃねえか！こんなところでくたばるな！」

　そんな状況でも、僕は虹色の魚のことだけを考えていた。もう一度、あと一度でいいから拝みたいと思い続けていた。

　やがて救急車が到着し、警察も来た。

　僕の冷たい体が救急車の中に運ばれる間も、お爺さんは僕に声をかけ続けていた。

　お爺さんは警察に事情聴取されており、救急車で病院に一緒に来る事はなかった。

　病院に着いて少しすると、僕の親が大粒の汗を流しながら僕の運ばれた病院に着いた。親が僕のもう動かない体の手に触れると強く握りしめて

「ごめん、ごめんね、ごめん。」

　と、悪いことを何一つしていないのに何故かずっと謝っていた。泣いて離れなかった。

　それから三日が経った。司法解剖らしきことをされた後にお通夜もお葬式も火葬も終わって、僕は体から離れて自由に動けるようになった。

　自由になってからすることは決めていた。虹色の魚探しだ。

　僕はまた海に行った。

　真昼の海は休日ということもあってか、人が沢山いて楽しそうだった。海は空をそのまま映し出していて鏡みたいだった。

　そんなことはどうでもいい。早く虹色の魚が見たい。早く、あの美しい姿をもう一度目に収めたい。

　僕は勢いよく海に向かって走った。隙間の見当たらない人混みをすり抜け、海に入った。僕の姿はやっぱり、海に映らなかった。

　海の中は何度見ても綺麗だと、たった二度しか入っていない僕でもそう断言できた。

　岩に張り付いた貝殻は瑠璃色のダイヤモンドのように輝き、色とりどりの珊瑚は海が作り出した天然の絵画のようだった。

　そんな海の景色に魅了されるのに区切りをつけて、僕は虹色の魚探しを始めた。前と比べて自由に海の中を進むことができた。

　海は僕を受け入れてくれているようだった。水泳の授業で泳ぐ時みたいに抵抗がなく、流れに身を任せることだってできた。

　陽が落ちて、人の気配が無くなるまで探しても虹色の魚は見つからなかった。僕は諦めて海から上がった。もう月が空の頂点に達していた。

　その時だった、一箇所だけ虹色に輝いている部分を発見したのは。

　僕は即座にそこへ向かったが、すぐに消えてしまった。

　その日はもう虹色の魚探しは諦めた。なんとなく、その日はもう見つからないと思ったからだ。

　次の日、僕はこの村唯一の図書館の存在を思い出した。