2.海に救われたPart2
二十時半になって親が帰ってきた。
「「ただいまー。」」
二人の明るい声がリビングに響いた。僕は二階から降りて、お父さんが持っている買い物袋を持ってリビングに行った。
「今日のご飯は何?」
僕がそう聞くとお母さんが笑顔で
「今日はあんたの好きなチーズインハンバーグよ。」
僕は笑顔で
「やったー!」
と、言って喜んでみせた。
お父さんが買い物袋からDVDを取り出して
「明日は休みだし、今日はゆっくり映画でも見ようと思ってな。これ、好きだっただろ。」
お父さんが持っていたのは僕が小学生の頃によく見ていたアクション映画だった。
僕は大袈裟に
「いいの?!」
という反応をした。
僕の反応を見て二人は笑顔になっている。
二人はまだ僕が小学生で止まっていると思っているのだろう。僕が小学生まで好きだったものを今でも好きだと思っている。
今はチーズインハンバーグはあまり好きではない。それに映画も今はアクション系じゃなくてホラー系のほうが好きだ。
でも、ずっと小学生扱いのままでいいと今では思えてしまう。その方が、愛してもらえる。
夏休みの課題を進めるために部屋に戻った。二十一時になって
「ごはんよー!」
と、僕を呼ぶお母さんの声が聞こえた。僕は
「はーい!今降りるー!」
と、返事をしてワークを閉じた。一階に降りて手を洗い、リビングにある食卓に座った。そこには、チーズインハンバーグと茹で野菜、白米とコーンスープがあった。
食事中に僕とお父さんとお母さんは、今日も他愛のない普段と変わらない会話を楽しんだ。二十一時半に僕は食べ終わった後、すぐにお皿をシンクに置いてオフロに入った。
二十二時、お風呂から出てリビングに向かうと、ポップコーンとジュースを持ったお父さんが、テレビの前のソファーに座っていた。
「お前の分もあるぞ。」
お父さんはそう言うと、隣に置いてあったポップコーンらを僕に渡してきた。お母さんはお皿を洗いながらこちらを見ている。
映画を見ている時、僕はいつもと同じタイミングでいつもと同じ反応をした。それを見て、二人は喜んでいる。
二十三時半に映画を見終わった僕は歯磨きをして自室に戻った。
午前零時になると二人は寝ていた。
僕は勉強机の上に遺書を置いた。目立つように錘も近くに置いたから気づいてくれると思う。
僕は音を立てないように歩いて家を出た。それから僕は全速力で海へと向かった。生い茂った雑草がざあざあと風に揺られる音、蝉や蛙の鳴き声、薄暗く道を照らす街灯、空を照らす月。全てがどうでも良かった。
何時間走ったのだろうか、もうすっかり夜は深くなっていた。ぜえぜえと息を切らしながら、僕は海に着いた。
僕は靴も靴下も脱いで海に入った。その時には月が空の頂点に達していた。海水は昼に浴びた太陽の温かさをまだ保っている。段々と水深が深くなるごとに体が軽く、冷たくなっていく。頭まで海に浸かった時、僕は驚いた。
海の中はどれもこれも幻想的で、図書館にある本で読んだ桃源郷のようだった。
その中でも、僕はある一匹の魚に目が奪われた。
その魚は、全身で虹をそのまま吸収したような美しい姿をしている。泳ぐ姿はまるで、森羅万象全てだけでなく、神様まで魅了するダンスのようだった。
僕は無我夢中で追いかけようとしたが、体が一向に進まなかった。
元々泳ぐのが得意ではなかった僕は、先程全速力で走ったことも相まって泳ぐ気力が一切湧かなかった。
肺だけでなく内臓全てに海水が満ちていることがわかる。そのままじわじわと僕に意識はなくなった。
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