第2話 筐体盗難事件対策会議

--------------------------------------------------------------------

(日 時) 平成13年12月18日19時00分~19時30分

(場 所) 会議室A

(出席者) 鹿糠統括、新沼戦術部長、黄川田法務・渉外部長、稲垣情報部長、大槻研究・開発部長、事務局秋篠


--------------------------------------------------------------------

<議事内容>

〇事務局

 事務局の秋篠です。定刻となりましたので、ただいまから筐体盗難事件に関する対策会議を始めさせていただきます。

 それでは統括の鹿糠様、議事の進行をお願いします。


〇鹿糠統括

 ありがとうございます。

 昨日招集のご案内をしたにもかかわらず、みなさん全員お集まりいただきましてありがとうございます。

 本日の議題は筐体盗難事件への対応についてであります。事件発覚から間もないため情報も不足しておりますが、この会議では、財団において「筐体」と呼称する物品に関する前提情報と大局的な方針を共有し、今後の対応に役立てていければと思います。

 早速ですが、情報部から筐体の概要について説明お願いします。


〇稲垣情報部長

 はい。お手元にある写真資料をご覧ください。こちらがその筐体の写真になります。ご覧のとおり筐体は一辺20cmほどの正六面体の木製の箱となります。財団の前身団体から引き継いだ資料によると、筐体に触ったり、触れなくても一定時間筐体に近づいた女性及び子どもはおおよそ48時間以内に急性心不全等で死亡する、とのことです。

 これまで●●県●●町内の集落にて各家庭の持ち回りで計4個を保管していましたが、12月14日に、このうち1個の筐体が盗まれました。犯人は●●県内に居住する暴力団員で、あくまで金品目的の窃盗だったのですが、筐体を貴重品と誤認してしまったそうです。窃盗犯が筐体を所持しながら自宅及び実家にそれぞれ1泊ずつしたところ、親戚が実家に集まっていたことなどもあいまって、現時点までに計9名の女性や子どもが変死しています。死亡状況に鑑み、当局から財団に情報提供がなされたことで、本件筐体との関連が判明しました。

 その後の動きですが、筐体は上納され、上部団体や関連団体を流通していきながら、最終的には覚せい剤取引に係る代金の一部として又は代金に付随物として外国組織に交付されたことがわかりました。そして現在、当該外国組織の船舶が日本海沖を西方に移動中のようです。


〇鹿糠統括

 ありがとうございます。ここから質疑とさせていただこうと思いますが、早速私から質問させてください。

 筐体についてもう少し教えていただければと思います。筐体の影響で女性や子どもが亡くなるとのことですが、どのような原因やメカニズムで亡くなるのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 筐体のメカニズムについては毒物、細菌、ウイルス、放射線又は暗示的効果などの可能性が考えられますが、前身団体の調査でも特定できず、未だ不明です。


〇鹿糠統括

 そもそも論になってしまいますが、ご説明にあったような筐体の効果は確実なのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 確かに、住民に伝わる死亡事例はかなり古いのですが、前身団体の残した資料によると筐体の効果は確実とのことです。前身団体の資料は基本的にかなり信用性が高いため、その内容を前提とすることに問題はないと思われます。


〇鹿糠統括

 前身団体は筐体の効果を検証したということでしょうか。


〇稲垣情報部長

 記録はありませんが検証したものと考えております。検証方法の記録がないことから、今でいうと反社会的といいますか、倫理に反する方法であったために記録を残さなかった可能性がありますが、前身団体の傾向として何らかの検証はしたことはほぼ確実です。


〇鹿糠統括

 わかりました。ありがとうございます。


〇新沼戦術部長

 何点か質問させてください。まず、箱や筐体という言い方から、中に何かが入っているように聞こえるのですが、筐体の中身は何なのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 地元住民によると筐体の中身は人体の一部とのことです。ただし、前身団体も当時の所有者から筐体を分解する許可を得られなかったため、筐体の中身は確認できなかったそうです。

 

〇新沼戦術部長

 誰がこれらの筐体を作ったのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 こちらも住民の口伝で客観資料がありませんが、江戸末期から明治にかけて集落の住民が外部専門家の指導のもとに製作したとのことです。外部専門家の素性は不明とのことでした。


〇新沼戦術部長

 筐体は一般家庭で保管されていたとのことですが、住民に筐体の影響はなかったのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 多少の事故はあったそうですが、地元のアドバイザー、これは神社の方ですが、その方から指導された保管方法を履践することで、基本的には被害を免れてきたそうです。ちなみに保管方法といっても使われなくなった納屋など生活空間からできるだけ離れたところに保管し、女性や子どもが近づかないようにしている、というだけとのことです。


〇新沼戦術部長

 筐体による影響の対象は女性と子どもとのことですが、子どもについては何歳までが影響の範囲内なのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 住民によると15歳程度までが筐体の効果範囲のようです。


〇新沼戦術部長

 承知いたしました。


〇黄川田法務・渉外部長

 私からも少し質問をよろしいでしょうか。前身団体が筐体を保管するという選択肢もあったと思うのですが、当時そうしなかったのはなぜでしょうか。


〇稲垣情報部長

 ご指摘のとおりでして、前身団体も保管を検討したそうなのですが、地域住民が固辞したことと筐体及び保管方法の原理が不明であるという事情から前身団体による保管を見送ったとのことです。


〇大槻研究・開発部長

 筐体については、当該集落での保管継続を推奨します。メカニズムがわからない以上、正確なリスク算定ができず、対策が困難です。


〇黄川田法務・渉外部長

 現地保管となると、倉庫や金庫などを財団の費用負担で新設し、そちらで保管していただくような方法もあるでしょうか。


〇稲垣情報部長

 はい、集落の方には財団の費用で倉庫をなどを新設しますという打診をしております。ただ、秘密裏に持ち回りをしているのでどこの家が筐体を保管しているかわかってしまうのは困るというようなことをおっしゃっていました。


〇黄川田法務・渉外部長

 持ち回り対象の全世帯に倉庫や金庫を新設してあげますよといった提案をした方がいいかもしれませんね。住民説明会などをして。

 それと、現状、筐体が海外に流出する可能性があると思います。この場合に外国組織が筐体を利用するリスクについてはどのように想定しているでしょうか。


〇稲垣情報部長

 海外流出した場合、外国組織が筐体を悪用するおそれはありますが、今のところは限定的なリスクにとどまるものと考えております。筐体自体は兵器としての効率は必ずしも高くなく、大局的な効果は期待できないと考えております。


〇新沼戦術部長

 すみません、私見ですが、使用方法次第ではテロに使用できますので、犯罪組織やテロ組織、又は工作機関などに筐体が渡った場合はリスクが飛躍的に高まるものと考えます。


〇黄川田法務・渉外部長

 なるほど。

 現在、筐体を運搬する船舶は追跡できているのでしょうか。


〇稲垣情報部長

 財団としては対象船舶を現在追跡できておりません。しかし、本日、在日米軍から防衛庁に対して、日本海沖を航行する不審船に関する情報が提供され、現在、海自が当該不審船を捜索中です。捜索範囲や在日米軍が傍受した通信内容に鑑みると、当該不審船が筐体を運搬する外国組織の船である可能性が極めて高いです。

 また、海自が不審船を確認した場合は海保も共同で捜索に従事すると見られ、大規模な捜索行動になりそうです。


〇鹿糠統括

 状況が複雑ですね。財団として、どのような対応がありうるでしょうか。できる限り筐体による被害は防止したいと思います。


〇黄川田法務・渉外部長

 既に海自が動いている以上、財団が前面に出ることはできません。まずは当局に、不審船が財団案件の危険物を運搬している可能性があることを伝えるとともに、不審船の積載物や海上への落下物に触れないよう警告を出した方がよいと考えます。


〇鹿糠統括

 そうですね。この会議が終わりましたら早速情報提供をお願いいたします。

 筐体を可能な限り安全に確保する方法はあるでしょうか。


〇稲垣情報部長

 展開次第となりますが、大きく2通りです。

 1つ目は、海自や海保が不審船を拿捕できた場合ですが、この場合は戦術部の成人男性で構成されたチームで船内を捜索し、筐体を確保できた場合は集落の元所有者に返還します。 念のため、筐体の回収にはIED処理用ロボットの使用も提案いたします。

 2つ目は、不審船を拿捕できなかった場合です。この場合は筐体が海外流出した場合を想定することになりますが、主として筐体の追跡が任務となります。追跡方法としては、情報部が他国の変死事例の偏りを調査し、筐体を追跡することになりますが、変死事例の偏りは珍しいものではない点や、国によっては調査チームが派遣できなかったり、情報開示をしない可能性がある点は注意が必要です。筐体の所在次第では確保を目指します。


〇鹿糠統括

 今説明のあった筐体の確保について戦術部長いかがでしょうか。


〇新沼戦術部長

 筐体の回収方法については異存ありません。

 ちなみに、海自や海保が不審船を発見できた場合、不審船と戦闘になるおそれがあります。その際、筐体が破壊される可能性もあると思うのですが、その場合に何らかのリスクはあるでしょうか。


〇稲垣情報部長

 結論から申しますと筐体破壊時の影響はわかっていません。住民によると、筐体は正規の手順で処分しなければならないということなのですが、正規の手順に従わずに処分した場合の結果は不明とのことです。それと、この筐体は未だ正規の手順によっても処分できる段階にないとのことです。


〇鹿糠統括

 この外国組織はどこの国の組織なのでしょうか。国によっては選択肢が増えるのではないかと思いますが。


〇稲垣情報部長

 窃盗犯の供述及び傍受した通信内容に鑑みると●●●●●●●●●●●国と見て間違いありません。国家体制に鑑みると、この外国組織は実質的に●●●政府の末端組織です。


〇鹿糠統括

 ●●●に協力要請はできないのでしょうか。


〇黄川田法務・渉外部長

 我が国は●●●と国交がないため直接的な協力要請は困難です。ただし、中国経由で●●●にメッセージを伝えることは可能です。筐体の危険性、厄介性を伝えれば無線で不審船に停戦指示を出したり、帰国後に筐体を隔離するかもしれません。筐体は言ってしまえば疫病に近く、●●●側も国内流通は嫌でしょうから。


〇鹿糠統括

 そうですね。国交がないとしても人道的観点から●●●での筐体の流通は防ぎたいところです。もちろん●●●側が期待した対応をしてくれるかは別の話ですが、こちらとしてはできることはしていきましょう。

 中国経由で●●●側にメッセージを伝達していただければと思いますが、いかがでしょうか。よろしいですか。

 それでは法務・渉外部から伝達作業の方をお願いいたします。


〇黄川田法務・渉外部長

 承知いたしました。当局への情報提供と並行して●●●対応も進めてまいります。


〇鹿糠統括

 その他のご質問やご意見などはいかがでしょうか。

 はい。ありがとうございます。

 それでは、本日の協議で確認した方針に沿って各自対応を進めていただければと思います。

 なお、本作戦の理事レクについては各理事から事後でよいとの許可を頂いておりますので、事件が落ち着いた段階で速やかにレクの準備もしていただければと思います。

 みなさん、本日はお忙しいところありがとうございました。


--------------------------------------------------------------------

<付記1:事件経過>

(平成13年12月21日)

16:32 海自の対潜哨戒機が東シナ海九州南西海域にて筐体を積載する船舶(以下「不審船」という。)を発見。


(平成13年12月22日)

01:10 海保が防衛庁から不審船情報を入手。巡視船、航空機及び特殊警備隊に発動を指示。

06:20 海保航空機が不審船を視認。

12:48 海保巡視船が不審船を視認。

13:12 海保巡視船及び航空機が不審船に対して停船命令を実施。不審船はこれに応じず逃走継続。

14:00 財団より、中国経由で●●●に対して筐体に関する情報提供を実施。なお、●●●側の意向に関する情報は得られず。

14:36 海保巡視船が20ミリ機関砲による威嚇射撃を実施。

16:13 海保巡視船が20ミリ機関砲による威嚇のための船体射撃を開始。

17:24 不審船から出火。

17:41 不審船乗務員が何らかの物体を海中に投棄。

17:51 不審船の火災鎮火。

18:52 海保巡視船が不審船に接弦を実施。

21:35 海保巡視船が20ミリ機関砲による威嚇のための船体射撃を再度実施。

22:00 海保巡視船2隻による挟撃、強行接弦を開始。

22:09 不審船乗員が海保巡視船に対してPK系軽機関銃、AKS-74、ZPU-2機関砲及びRPG-7による攻撃を開始。 これに対し、海保巡視船が正当防衛射撃を実施。

22:13 不審船が自爆し、沈没。筐体の所在は不明。


--------------------------------------------------------------------

<付記2:筐体追跡状況>


(平成14年) 

 不審船を引き揚げるも筐体は不明。

(平成18年)

 中東において●●●●が活動開始。

(平成24年)

 ●●●●が●●●●●●と合流し、過激派武装組織に。同時期から中東において女性及び子どもの変死事例が増えるが、紛争地帯のため筐体の影響は不明。ただし、●●●●の最高指導者が何らかの「贈答品」を用いて潜在的敵対勢力の家族や少年兵を攻撃し、その後「贈答品」を回収しているとの情報あり。当該「贈答品」が筐体かは不明。

(平成26年)

 ●●●●が●●●●国家樹立を宣言し、中東及びアフリカ北部への大規模攻撃・侵略を開始。有志国連合は●●●●に対して爆撃を開始。米国情報機関より入手した写真から、●●●●の最高指導者が置物風に加工された筐体を所持していることが判明。

(平成29年)

 ●●●●がアフガニスタンのナンガルハール州アチン地区にて筐体を保管していることが判明するも、米軍が同地区の筐体保管場所に対してMOABを使用したため筐体の所在が不明に。筐体消失とみなし、追跡活動を終了。

(令和元年)

 ●●●●の最高指導者が米軍の特殊作戦により死亡。

(令和2年)

 レバノンベイルート港で筐体の取引が実施されるとの情報を入手したため筐体追跡活動を再開するも、大規模な爆発事故により関係者及び筐体の所在が不明に。これ以降、筐体に関する情報は得られていない。


--------------------------------------------------------------------

<付記3:その他>

・平成17年に筐体の情報がインターネットにて漏洩。限定的な漏洩のため、追跡活動に対する影響は軽微。

・公開にあたり一部情報をマスキングした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る