【リライト】企画用書き下ろし短編『夜の果て』
【作品タイトル】夜の果て
【作者】日向風様
【原文直リンク】 https://kakuyomu.jp/works/16818622176291132921/episodes/16818622176291490159
【作者コメント】
普段ホラーは全く書かないので、ここで挑戦です!!
書きながら、怖かった!!(笑)日向風様、素敵な原文をお貸しいただき有難うございました!
==▼以下、リライト文。============
『ただのお伽噺さ』
そう言って肩をすくめて笑った友の顔を、何故か急に思い出した。
どうやってここまで来たのか。何故自分は今ここに来ているか、その理由が思い出せない。
ふと、友人の顔を思い出したことで、ああそうか、自分はあいつを探しに来たんだったっけと思い出す。
路地にはいくつもの店が並んでいるのに、何故かどれも閉まっていて仄暗い。
人の気配はするのにまるでゴーストタウンのような奇妙な通りを進むと、暗闇の中にぽつんと赤い光が一つだけ灯っていた。
「『ルインズ・バー』?」
扉は朽ちかけて、とても営業している様な雰囲気ではない。
けれど、中からは人の気配がするし、ドアには『Open』のプレートが下がっていた。
『そこは、この世に―――た―――が―さ』
自分の前からいなくなってしまった友がなにか言っていた気がするが、肝心な所が思い出せない。けれどこの扉を開けば友の行方がわかる気がして、男はバーの扉に手をかけた。
軋んだ扉を開けるとやはり中には人が大勢いた。
異様に暗い店内に満席と言っていいほどの客がいる。こんなに人が沢山いるのに店内はやけに静かで、バーテンダーが酒を用意する音だけが店に響いていた。
「いらっしゃいませ」
カウンターにポッカリと空いたひと席に促され、隣に座る客に軽く会釈をしてから自分の体をすべり込ませる。
「バーボンを」
男の注文に、色褪せた写真のような顔色で、バーテンダーは無言でグラスに琥珀色の液体を注いだ。
店内をぐるりと見渡してみるが、暗い照明のせいか一様に客の顔が見えづらい。ふと、隣に目をやると、見覚えのある腕時計が目に入った。
「――! マイク?」
男の声に隣の男がビクリと肩を震わせる。
それは、間違いなく探していた友人だった。
彼は俯いたまま、震える手で返事を返す。
「……よう、相棒。お前までこんなところに来ちまったのか」
マイクは顔を上げることもなく低い声で呟いた。
「馬鹿野郎! 心配したんだぞ! ……そりゃあ、奥さんの事は気の毒だったさ、強盗に入られて撃たれちまうなんてな。けれどお前は奥さんの分も――」
「撃ったのは俺だよ」
「――え?」
男は息を飲んだ。
「あいつが悪いんだ。あいつが男なんて連れ込むから。俺はちゃんと話し合おうと思ってたのに、俺と別れて別の男のところに行くなんて云うから――」
「お、おい……!!」
肩を掴んで友の顔を見る。
顔を上げた友の顔を見て男は戦慄した。
「ヒッ……!!」
友の顔はまるで闇に溶けたように、眼窩が空っぽだった。
暗いクライ、深淵の闇を男に向けて友の口元がニタリと笑う。
「――知ってるんだ。妻の相手はオマエだろう?」
ガタリと席を立った男が後ずさると、背中にドンと何かが触れた。いつの間にか店内にいた客が男を取り囲んでいる。
そこにいる、客の顔には全員目がなかった。
「オマエ、冤罪事件ももみ消してたよな。ここに来たってことは後悔してたんだろう? その事も、俺のことも……ここは『ルインズ・バー』この世に絶望した奴が来る場所だからな」
——闇の中から、無数の手が伸びてくる。
男は声にならない悲鳴を上げた。
「ルインズ・バーへようこそ。今夜のお客様は、あなたで最後です」
その言葉と同時に、店の灯りが落ちた。
誰の胸にも、触れたくない過去がある。
忘れたい罪がある。
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