偶然


飛行機とバスを乗り継ぎ、

なんとかじいちゃんちを避けながら、目的地まで辿り着いた。


すると、そこには車椅子に乗ったどこか見覚えのある姿。


「久しぶり、だね。」


「おう。」


女は2年前と変わらない笑顔で声を掛けてきた。


「こんにちは。」

女が乗っている車椅子の後ろに立つ、女性が会釈をしながら俺に声を掛けてくる。


「どうも。」


「それじゃあ、トワナさん。私は向こうで少し休んでますね。」

「ありがとうございます。」


30分くらいしたらまた戻りますと、女性は女に声を掛け、また俺に会釈をしてその場をあとにする。


「びっくりした?」


「何が?」


「こんなのに座ってて。。。」


「いや。」

俺はあの時に姿を見たことを口には出さなかった。


「実はね、、、。」と女は話を続ける。


女の話をまとめると、

まずは、女は冬和菜(とわな)というらしい。


冬和菜は東京生まれの東京育ちで、

ここには冬和菜自身には縁も所縁もない場所である。


ここの場所は、修の見舞いに来ていた親戚の人達が話をしているのを聞いて、

修との話のネタとして何となくメモしていたようだが。


では、なぜこんなところにいた、いるのか。


冬和菜は難病を抱えている。

それが原因で車椅子が必要となっているらしい。

そして、その難病は修とかなり似ているものだそうだ。


冬和菜と修はかかりつけの病院・医師が同じらしく、

よく顔を合わせており、検査入院等ではその入院時期が重なることもあり、

姉弟のように思っていたらしい。


実は一度、修の見舞いに行ったことがあった俺は、記憶に全くないが冬和菜と話したことがあるようだ。


修は、本当に人が好きで、俺のこともよく冬和菜に話していたらしい。


「次に智兄と会ったときは、こんなクイズを出そうと思ってるんだ。」

「智兄は優しくて、いつも遊んでくれるんだよ。」

「智兄の為に、パパになぞなぞの絵本買ってもらったんだ。」


なんて言ってたらしい。


修が亡くなる直前、冬和菜は偶然検査入院の時期で、修の悲報を目の当たりにしたらしい。


冬和菜は、悲しみと恐怖で涙が止まらなかったよう。


それでも、冬和菜は自分に残された時間をもう少し楽しもうと思った。


ただその前に、修がやり残したことを少しでも代わりにやりたいと思い、ここに来た。

ここの景色を眺め、そして俺に出会うために。


ただ何の確証もなかったが、修の代わりに。


つまり、

2年前の出会いは偶然ではなく、

そしていたずらしたりクイズを出してきたりと、ちび達っぽいと感じたことも、

ある意味演出であったのだ。


冬和菜は最後に、

「騙そうとしたつもりではないけど、ごめん。」

と下を向きながら付け加えた。


「気にすんなよ。そんなこと。」

実際に俺はそう思っていた。

感情が複雑ではあるが、温かい気持ちになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る