わな


「あ、そこ、、。」

俺がいつものテトラポットにもたれかかろうとすると、女が俺の足元を指差す。


ひぇっっ。


俺はびっくりして飛び上がった。が、それも一瞬で冷静になれた。


明らかにおもちゃの蛇であった。


「こんなとこに、蛇なんているわけないじゃん。」

女はにこりと笑いながら言う。


「そうかもしれないけど、びっくりはするでしょ。」

俺は、こんなしょうもないドッキリに一瞬でも驚かされたことに対して、恥ずかしさを感じ、それを打ち消すようにむきになる。


「あはは。」

女は楽しそうに笑っている。


「あははじゃないんだよ。急に心臓止まって、寿命縮まったらどうしてくれるんだよ。」

俺も笑いながら、冗談でこたえる。


「あはは、、、。」

女の顔が肌が一瞬、より白くなったように感じた。


「あ、今日はそろそろ帰るね。」


「お、おう。」


「ごめんね。用事あるの思い出して。」


「いいよいいよ。また今度な。」


この時は何も感じることが出来なかったが、

俺は数年後、この時のことを何故か鮮明に思い出すことになる。

そして、その時には気付けない、気付いてもどうしようもないこともあると知る。

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