宿題
「智仁、宿題ちゃんと進んでるの?」
「やってるよ。だけど、全部が全部簡単な問題じゃないから。大体こういうのってさ、友達と一緒に図書館とかで普通やるもんじゃん。」
「そう?お母さんは一人で黙々とやる方が好きだったけど。それに分からないなら、携帯で聞けばいいじゃない。」
「いや、まあそれはそうなんだけど。」
そうなんだけど、そういうことではないんだよなと思ったが、ここは堪えておこう。
「宿題もそうだけど、受験生なんだから、それ以上のこともしないとなんだからね。むしろ、こっちに来た方が、じっくりできるじゃない。あ、それと、健ちゃんたちのこともちゃんと可愛がってあげてね。」
「はいはい、分かってるよ。」
「じゃあ、任せたからね。お母さん達やることあるから。」
「やることって、食べてるだけじゃん。父さんなんか、お酒飲んで寝てるばっかりだし。」
「それが、『やること』なのよ。」
「ふぅーん。」
これ俺が同じこと言ったら、多分親父に怒られるんだろうなという内容だ。
食べて、喋って、飲んで、喋って、寝ての繰り返しがなんでやるべきことなんだよ。と喉まで出掛かるが言葉には出さない。
「大人になったら、そのうち分かるわよ。今は、その『分からない』も大事にしなさいね。」
表情には出ていたようだ。
「はいはぁーい。」
「あんたは昔から察しの良い子で、ちびちゃん達の面倒も誰に言われるまでもなくやってくれてたし。部活にも行かないのも、こうして夏休みの間、学校や皆に迷惑かけることを避けてそうしてくれているんだろうし。」
部活のことは確かにそうではあるが、別に義務的な感じではなく、そうするのが良いのかなと思ったくらいだったし、特別何か本気でやりたいこともなかったし。
ただ、ちび達に関しては、こちらとしてもやるつもりではなく、向こうさんから勝手ドカドカとやってきたので仕方なく接している感じなだけだったのだが。。。
「勉強も特にお母さんたちから何か言った訳でもないけどさ。もう成年になるし、どうせ県外の大学に行って、あんまり帰って来ないつもりなんだろうから、ちょっと言っとくわね。」
俺は、第一志望を伝えている訳ではないし、今時点で決めてもいないのだが、心の中を見透かされたようで気恥ずかしくなった。いや、見透かされたというか、おそらく母さんは、気付いていたレベルではなく『ずっと知っていた』のだろう。
「自分にとって嫌なこととか周りからみると意味のないこととかに、この先たくさん出逢うと思う。でも、それってあくまで『じゃない人にとって』なの。100人中99人が意味のないことだと思うことでも、残りの1人にとってはとてもとても大切なこともある。あんたは、きっとその1人の気持ちも大事にできるはず。自分では気付いていないと思うけど。どっちにも気付けるあんただからこそ、『じゃない人のままでいるかどうか』、っていうことに悩むことが出てくると思う。どっちが良いかなんかは分からないし、答えも出てこないと思う。けど、一番大事なのは、あんた自身がしっかりと考えること。そして、後悔しないこと、終わったことで思い詰めないこと。それだけ約束してくれたら、お母さんは安心よ。」
穏やかな母さんで、説教っぽいことはいつも親父の役目だったのだが、きっと俺に話すタイミングを見計らっていたのだろう。
その証拠に、『宿題進んでるか』、なんて母さんからはこれまで言われたことない気がする。
「ん。なんかあんまりよく分からないけど、頑張るよ。」
「よろしい。じゃ、戻るから。」
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