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翌日、三崎はこの町から綺麗さっぱり消える。


私は太陽に焼かれながら三崎のアパートのそばに立ち、カーテンが取り払われた窓からもぬけの殻になった室内を眺める。


しばらくして三崎の不在に気づいた仲間がこぞって電話をかけるけど、当然のようにもう繋がらない。もしかしたらずっと前から繋がらなくなっていたのかもしれない。もしそうならあのとき鳴っていたのは私のスマホだけだったと、三崎の喪失に騒然とする仲間に囲まれてぼんやり考えながら夏が過ぎる。


三崎の行方はさーちゃんも和くんも他の誰も知らない。


なんか三崎っぽいよな。


だいたいみんな同じその所感でまとまって、秋とともに大学がはじまる。阿久津も無事カナダから帰ってくる。さーちゃんは溝口健二を観ないまま夢を捨てる。


それからの私は、文化祭で下手な軽音サークルをひやかしながらラーメンを食べ、年越しは帰省なんかせず炬燵で飲んだくれ、ぎゅうぎゅうのバンに乗ってスキー場に行き、桜が咲いたら楽しくお花見もするけどでも、いちいちそこに三崎はいない。


らんまで笑ってもリアルで泣いても三崎はいない。


どこにいるのかの想像すらできないから、頼みの綱のように私は雪の降らないミクロネシアの島々に思いを馳せ、そのどこかで関西弁を話す三崎を祈るように夢想しては、脇目もふらず泣きだす。


楽しくて。飲み過ぎて。転んで。桜が綺麗で。的外れな言い訳を口にしながら泣く。


泣きながら、涙が透明でよかったと思う。涙に色がついていなくてよかった、本当によかったと、どれだけ大人になっても思う。


こうして泣く私は神田川の切なさを掴んでいて、大切に握っていて、そのことを三崎にだけ言いたいということを、ずっと三崎にだけ言うことができない。
















「某大学生」

products by 3/3, 2021夏













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某大学生 三月 @sungatu

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