第二話:芽生える疑念と、見えない綻び

翌日、放課後。


ヒカリは、ユウトと葵を連れて、指定したクレープ店の前で待ち合わせをしていた。しかし、時間が過ぎても二人の姿は見えない。ヒカリはスマホを取り出し、ユウトと葵にメッセージを送った。


「あれ、まだかな?」


数分後、ユウトから返信が来た。「ごめん、ヒカリ!葵がまだ来ないんだ。メッセージ送ったんだけど、返信なくて…」


ヒカリは首を傾げた。葵はいつも約束にきっちりしている。まして、ユウトからメッセージが来ているなら、尚更だ。


その時、少し離れた場所から、二人の姿が見えた。葵とユウトが、何やらスマホを見ながら困った顔で話している。ヒカリは駆け寄った。


「葵!ユウト!どうしたの?」


葵は、スマホの画面をヒカリに見せた。「これ見て、ヒカリ。ユウトからメッセージ来てるのに、通知が鳴ってなかったの!だから気づかなくて…」


ユウトが「本当にごめん、ヒカリ。俺、ちゃんとメッセージ送ったんだけど」と、心底申し訳なさそうに言った。


「そっか…」


ヒカリは笑顔を見せた。だが、その笑顔の裏で、かすかな違和感が芽生えていた。なぜ、葵のスマホだけ通知が鳴らなかったのだろう。たまたま、だろうか?いや、そんな偶然が、こんな肝心な時に起こるものだろうか?


僕の計画は、順調だった。ほんの小さなミスを、あたかも偶然のように起こさせる。そして、その小さなミスが、彼らの間に、見えない亀裂を生む。


クレープを食べ終え、三人で他愛のない話をしている時だった。ユウトが、ふと僕の近くを通りかかった。僕は、さりげなく、彼のリュックのサイドポケットに、小さなメモを滑り込ませた。それは、僕が作った、まるで葵の筆跡のように見えるメモだ。「ユウト、この前の件、ヒカリには内緒ね。また今度話そう。」


メモは、ユウトのリュックの奥に消えた。彼が気づくことはない。しかし、いつか、誰かの目に触れるだろう。


その日の夜、ヒカリは自分の部屋で、昼間の出来事を思い出していた。葵のスマホの通知。ユウトと葵の、どこか歯切れの悪い様子。


(もしかして、私に何か隠してる…?)


ヒカリの胸に、ちくりと痛みが走った。彼女は、親友と恋人を信じている。だが、信じたいという気持ちとは裏腹に、心に生まれた疑念は、小さな影のように広がり始めていた。


それは、魔法少女の活動にも影響を及ぼし始めていた。


翌日の放課後。怪人が突如、繁華街に出現した。ヒカリはプリズム・スターに変身し、現場へと急行する。しかし、戦闘中に、彼女の集中力は散漫になっていた。ユウトと葵の顔が、ふと脳裏をよぎる。彼らが、自分に隠し事をしているのではないかという不安が、思考の片隅にまとわりついて離れない。


「プリズム・スター、大丈夫か!?」


市民からの声援が飛ぶ。しかし、その声すら、ヒカリには遠く聞こえた。攻撃は精度を欠き、怪人の攻撃をかわすのが精一杯だった。なんとか怪人を撃退したものの、街には小さな被害が残ってしまった。


「最近のプリズム・スター、なんか元気ないわね」


「前より、ちょっと頼りない感じがするんだけど…」


市民の囁きが、ヒカリの耳に届く。その声が、彼女の心に鉛のように重くのしかかった。守るべき人々の期待に応えられないことへの焦り。そして、心に巣食う疑念。


僕は、その光景を、遠くから見つめていた。ヒカリの輝きが、ほんの少しだけ、確かに翳り始めた。彼女の瞳の奥に、以前はなかった、不安の影が宿っている。


僕の作品は、ゆっくりと、しかし確実に、その形を変え始めていた。


******


次回予告:


小さなすれ違いは、やがて不信の種へと変わる。ユウトと葵は、その変化に気づかない。そして、僕の次なる一手は、彼らの関係に、目に見えない毒をじわじわと回し始める。

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