第3話 謎の卵と、魔法の洗剤騒動。秘密のダンジョンライフ、加速中。



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その朝、美咲はちょっとした事件に直面していた。


「うわっ!? なにこれ、ぬくい!?」


台所の棚に入れていた《謎の卵》が——

ほんのりあったかくなって、ぴくぴく動いていたのだ。



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「……孵化するって書いてあったけど、こんなに早く!?」


ダンジョン探索からまだ二日。まさかこんなにすぐ動くとは思わなかった。


ひとまず、卵はリビングの一角に設置した「観察ゾーン」へ。

レンジ下のカラーボックスを改造した、主婦らしい即席対応。



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そしてもうひとつ、美咲を悩ませていたもの——それが**《洗剤ポーション》**だ。



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【洗剤ポーション(オールインワン)】


効果:食器洗浄+衣類洗浄+床掃除対応

副効果:抗菌、防臭、柔軟、光沢付与

用法:数滴を水に溶かして使用



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「いや、便利すぎるんだけど……これ、なんにでも使えちゃうやつじゃん!?」

「……うっかり使い方間違えたら、なんか服が光ったりしそうで怖いんだけど!?」


とはいえ、今日の洗濯物は多め。息子の泥だらけ体操服とか、夫の加齢……いや、汗くさいワイシャツとか。


美咲は意を決して、ポーションを洗剤投入口に「ちょん」と一滴入れた。



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「いけっ……《主婦奥義・実験洗濯》!」


スイッチ、オン。


すると、洗濯機がふんわり光を帯びたように振動し始める。

不安と期待に包まれながら、待つこと30分——



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「…………っっっっなにこれ!?」


取り出した衣類は、すべてフワッフワで、軽くいい香りがして、

さらに見たことないくらい白くピカピカに輝いていた。


「見た目も肌触りも、完全に新製品……!?」


息子の体操服はまるで新品同様、夫のシャツはユニクロじゃなくて高級ホテル仕様みたいな手触りになっていた。



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そして、この変化に——息子・蓮(れん)が真っ先に反応した。



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「おかーさん!! 体操服すげぇいい匂いする!なにこれ!?」


「えっ、あ、ああ~~~ちょっといい柔軟剤試してみたの~」

(※嘘は言ってない。柔軟されてるし。)


「これ毎日がいい!! 学校で絶対人気になるやつ!!」


「そ、そっか~~よかったね~~(※プレッシャー)」



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その夜、美咲は夫にも「なんか最近、家の中が快適になってない?」とツッコまれることに。



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「掃除しても埃落ちてないし、空気もいいし、飯もなんか……レベルアップしてない?」


「え~~? そんなことないよぉ~?(※全部ダンジョンのせいです)」


「……主婦ってすごいな。俺、家じゃ何もできないのに」


「ふふふ、私がレベルアップしてるだけよ。たぶん」



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と、そこに聞こえる——**「コポッ」**という音。


二人が振り返ると、リビングの棚の上。

《謎の卵》が、割れていた。


中から現れたのは、ふわふわの毛玉のような小動物。

丸くて、手のひらサイズ。目がクリクリしていて、どこかぬいぐるみのよう。



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「……ぴ?」


「えっ!? なにこれ!? かわいい!? なに!?」


真人も思わず立ち上がる。


「え、え、え? 今孵った!? 生き物!? なんだこれ……!?」


美咲は即座に“主婦防衛本能”が作動。


「あっ、それ……あの、あれ! ゲームの限定キャンペーンで! あの、**“AIペット”! そう!AR系のやつ!!」

「最近のアプリってすごいんだよ!ね!? ほら動いて見えるタイプの……!!」


真人はまじまじとモフ生物を見つめる。


「え……ほんとに? ……すげぇリアルだな……すげぇ……」


(よし、ちょっと混乱してる! 押し切れそう!)



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美咲は冷や汗をかきながら、“夫にはダンジョンのことを悟らせない”という新たな難題に立ち向かう決意をした。



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【マスコット召喚・成功】


《モップビースト・もふまる》が仲間になりました!

種族:家庭型クリーナーモンスター

性格:おっとり、なつきやすい

特技:空気清浄/床掃除/ストレス軽減波



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「お掃除モンスター!?」


それはつまり——**“ペット型ルンバ”**みたいな存在だった。



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「ぴぴぴっ!」

もふまるは、さっそく床をコロコロ転がりながら、細かいゴミや髪の毛を吸い込んでいく。

ゴミが取れるたびに、ぴかーっと光って、美咲の脳内に《清掃完了》の文字が浮かぶ。



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「……私、なんか、すごい文明の恩恵受けてる気がする……」



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こうして、藤堂家のリビングにはついに「マスコットキャラ」も登場し、

掃除・洗濯・料理の3点で日常ランクアップは完全に発動した。


が、それでも——


美咲は誰にも言わないと決めていた。



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なぜなら、これがバレれば——

近所中に「見せて! わたしも潜ってみたい!」「うちの旦那、仕事辞めさせてもいい?」なんて話が飛び交うことは、容易に想像できたからだ。



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「まだ……今は内緒。」


そう、美咲は心に決める。


ダンジョンは、今日も床下に静かに存在している。

そして美咲は、また明日——夕飯の買い出しついでに、少しだけ階段を降りてみる予定だ。



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