第7話

・・・あった。雨をしのげる場所。


いや、でもここまでくると、逆に怖くなってくる。


雨をしのぐどころか、ここなら寝るところもあるのでは・・・?


目の前に建つのは、一軒の家。


見た感じ、新築のようだ。


明かりもついている。


けっこう広めだから、もしかしたら余っている部屋があるかもしれないけど・・・


もといた場所から5分ぐらい歩いた距離にあり、


安全に寝泊まりできそうなところなんて、都合が良すぎる。


もしかして、人食い鬼の住処・・・的な?


でも、それならそれで死に場所が変わっただけだ。


入ることしか希望は残されていない。


コン、コン、コン。


「どなたかいませんかー?」


ほんの1分ほどだったのに、この空白の時間が今までで一番長く感じた。


「あ、はい、いますよ。」 


木製の扉は、どこか年季を感じさせる音を立てて開いた。


新築に見えたが、そうでもないのだろうか?


そこからひょっこりと顔をのぞかせたのは・・・


まさかの若い女性だった。


若いといっても予想より若かったというだけで、20歳半ばぐらいに見える。


その人はこちらを見ると驚いた顔をした。


「えっと・・・どうかされましたか?」


あまりにも固まっているものだから、思わず僕は聞いてしまった。


「あ、いえ、ごめんなさい。なんでもないの。いつも扉を叩いてくるのは食べ物をわ


けてもらいに来たチンパンジーだったものだから、驚いただけ。」


こんなところに住んでいれば、きっとそんなことも日常茶飯事なのだろう。


チンパンジーだと思って扉を開けたら僕という人間が立っていたのだから、驚くのも


当然だ。


勝手に納得する。


「あ、どうぞ中に入って。外、暑いでしょう?」


「え、いいんですか?知り合いでもないのにそんな簡単に・・・」


「いいの、いいの!ほら入って!」


彼女には警戒心というものが一片たりともないらしい。


ありがたく中に入らせてもらう。


「ありがとうございます。あの、大変申し訳無いのですが、ここに泊めてもらうこと


って出来ませんか?部屋が空いてたらでいいので。今宿なしなんです。」


「全然いいですよ!ちょうど一つ、部屋が空いているので、そこを使ってくださ


い。」


「何から何まで、本当にありがとうございます。」


視線を見えない彼女の顔から、家へとうつす。


中を見て、僕は息を呑んだ。


角にさえも、埃ひとつ落ちてない。


木もツヤツヤとしている。


丸太のテーブルを挟んで座った僕は少し安心したのか、


「ここって、建てて何年ぐらいなんですか?」


つい、そんな質問が飛び出してしまった。


「え?築何年かって?うーん・・・8年ぐらいかな?」


「え!?8年!?」


「現実世界の時間に換算すれば、だけどね。」


「は?」


何を言ってるんだ、この人は。


敬語も忘れて、思わずタメ口が口から飛び出した。


まさか今、僕達が現実世界以外の時間軸にいるとでも言いたいのか?


「その通りだよ。私達は今・・・地球とは違う時間軸を生きている。」


「!」


もしかして考えていたことが口に出ていたのか・・・?


いや、違うな。なんだか、聞かれたことがあるから分かっている、そんな感じがする。


ていうか、地球と違う時間軸ってなんだよ!


「ま、そう思うよね〜。」


にかっ、と人懐っこい笑みを浮かべて、彼女は言った。


「詳しく説明する前に…少年、ループって分かるかい?」


「ループ?プログラミングとかで使うあのループのことですか?」


「そう。そのループだよ。私は今、24歳なの。そして私はこの24歳を・・・もう数え切


れないほどループしてる。ずっと同じ年齢のまま。ずっと同じことが起こるだけ。」


「どうしてそんなことに?」


「さあね。私にもわからない。気づいたらここに来ていたんだよね。最初はこの自然


豊かなところで過ごせることを喜んで満喫していた。けれど、途中で、同じことばか


り起こるし、全然老けることもないから、気づいちゃったんだ。あ、ループしてる、


って。」


僕は気づいていた。


彼女の口調がだんだん砕けてきていることに。


そしてそれに反比例するように、握りしめられた拳が震えているということに。


ループするということは、彼女は永遠に死ぬことがないということであり・・・そし


てそれは、永遠に生き続けなければいけないということに他ならない。


しかもこんな、知らない場所で。


少し視線を下げれば、彼女の強く握りしめられた震える拳が目に入った。


それでも、あんなに明るく振る舞ってくれていたのだ。


僕に伝えるために。


あぁ、つよいな、と思った。


これが、初めて彼女と出会った日だった。

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絵描き @real-name

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