ダジャレを永遠に言い続けるロボットメイドII

前回からのあらすじ

遺跡でメイドロボットを拾って家事をしてもらうことにした。


意識の外からの雑音が聞こえる。どうやらうちのメイドロボは遺跡産超軽量魔動クリーナーそうじきで掃除をしているようだ。


彼女はどうやらこちらの部屋を掃除するようであり、魔導コンセントを変えるためにこちらにギシギシとこのボロ屋の頼りない床の音を響かせながら近づいてきた。


いかんいかん。明日までに返さないといけない本なのに、まだ30%も読み終わっていない。


「おはようございます。マスター、何読んでるんですか?」


珍しく会話の中にダジャレがなかった。ついにうちのパンオヤジギャグメイドも成長したのだと感慨深くなる。感慨深くなるほどの時間はたっていないが。


「パンおはよう。カバーで見えなかったか。志賀直哉だよ、志賀直哉」


「マスターは直哉をお読みになっているのですか。そんなものにもかけていないと思っておりましたが。ところでもうお食事はできておりますがいかがなさいますか?」


続きが気になるところではあるが、本の開いているのに栞を挟んで机にとたんと置いた。


「じゃ、キッチンまで取りに行くよ。今日の料理はなんだい?」


「鶏肉料理でございます。つまり今からご主人様は、わけでございますね。」


悔しい。これは罠だったわけだ。ダジャレを展開するための布石......!見事に嵌められた。


「そういえば箸がないんだけど、どこにあるんだ?」


のパンが教えて差し上げ。箸は私の収納ケースに入っているのです。ご主人様の今の状況は、哉読みでございますね。」


パンはそういうと、自身のへその部分をえいやと押した。するとガシャコンという音と共に引き出しみたいなものが飛び出てきた。


「パン、君にはそんな仕様があったのか。さすがロボットといったところか」


がないです。割れ物じゃない食器類はこちらの方が便利かと思いまして収納しておいたんですよ。」


今日の食事は鶏肉を皮がパリッとするように焼いた名前が不定な料理、サラダ、それからパン一切れ(ダジャレの方ではない)である。


「ありがとう。いや、ダジャレを除くと完璧なメイドだ。僕の人生で最も偉大な発見ベスト8に入るよ」


「パンからダジャレを抜いたら何になるんですか。ダジャレ抜きのパンなんてジャム抜きのパンと変わりませんよ。しかも最も偉大なのに8個あるってどういうことですか。」という声はガン無視して食事をいただく。


鶏肉の繊維の残ったようなほろほろとした食感と皮のざくざくとした食感が口の中でハーモニーを繰り広げてますわ。こりゃグレートですわ。

サラダもうまい。


「全く、パンは最高だな......」


語尾にちょっとばかり濁したような間を残すと、すかさずパンがジト目でこちらを見ながら


「次にいう言葉はダジャレを除けば、ですね。」


と言ったので、こちらも


「イグザクトリー、全くその通りだ。」


という返答を返した。いや返答を返すというのは少しおかしな表現か?返事をしたくらいで良いのだろうか。


「ひどいですね。腺腫れろ。」


いつになく凶暴なダジャレが飛んできた。これは打ち解けてきたと言っていいのだろうか。


「まあでもだいぶダジャレには慣れてきた。受け流すパリイ力がついてきたと言ったところか。」


「つまり、パンはご主人様にとってパーフェクトなハンド料理を作れるということですか。それは嬉しいことですね。」


「メイドってそういうもんなのか?」


微妙な間が空間に落ち込んできた。それを振り払うようにパンは言った。


「メイドというものに起こるものではなく、ロボットの感情演算機能の限界なのかもしれません。これが嬉しいと規定されていると学んでいるからこう言っているのかもしれません。嬉しいという感情だとは思うのですが。」


「まあ、人間も似たようなもんだろ。ちっちゃい頃からこれがなんだ、あれがなんだっていうことを教えられたから、そこから今何を感じているかが明確になるようになっているんだ、ロボットとなんら変わらないさ。」


「そういうもんですかね。」


「そういうもんさ。」


今、パンがダジャレを言い続けるのは、自身の感情を確かめたかったからなのではないだろうか、と思い始めた。深く考えすぎかもしれないが、確かに心の奥ではそう感じたのは確かだ。


「変に同情心を買うような言葉でしたね。申し訳ございません。同情と言っているとが出てきますね。次はにいたしましょう。とびっきりグロテスクな見た目にして、にしてやりますよ。」


「僕も申し訳なかった。妙な質問をして悪かった。でもやなガワの鍋はやめてくれ。」


ら妙な質問でったと思いますが。その罪悪感は受け取っておきます。あとやなガワの鍋は絶対に決行します。」


「まだ若干わだかまりあるだろ」


鶏肉の皮をパリッと仕上げた料理はもう食べ終わっていた。

食事の後には


「ありがとな」


という言葉が口をついて出た。それに続いて


いえ、を提供していただいておりますので。」


という返答になっているのかなっていないのかわからない言葉が重ねられた。明日は仕事ダンジョニアリングの日である。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダジャレを永遠に言い続けるロボットメイド 伊福千折 @Khinchin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ