ダジャレを永遠に言い続けるロボットメイド

伊福千折

ダジャレを永遠に言い続けるロボットメイド

ダ=ジャレーナ遺跡で女性型人工生命体アーティフィシャル・ライフを拾った。見た目はかなりリアルで、しかも関節可動域も広い。これは期待できるぞ、と思って早速直し屋リペア・ショップ魔法式フォーミュラの乱れているところを直してもらった。そこそこ高くついたが仕方ない。だが、こんなにリアルな人工生命を使えるのだから、文句は言ってはいけない。言ってはいけないが、今月の食事代などが削られたのもまた事実である。


メイド服を着ているし、料理とかできるかもしれない。

この娘に料理とかしてもらって食事代を浮かそうと内心浮き足立ちながら帰宅した。


相変わらずボロい家である。貸してもらっている立場上あまり悪くはいえないが、それを込みでもボロい。天井には若干穴が空いてるし、なんなら床も歩くたび木材が抜けそうな音がするし。


そんなことはどうでもいい。この娘を早く起動しよう。


起動呪文ブーストはどんなだっけか。確かあの直し屋が言うには

「ダジャレを言うのは誰じゃ」擦られ倒された冗句だった気がする。


「よし、起動しろ。『ダジャレを言うのは誰じゃ』パワーオン!」


フォンフォンフォンという音と共に何故かメイド風の格好をしているロボットの瞼がゆっくりと開いていく。ここらの人間とは異なる青々とした眼が見つめてくる。


「おお、すげー。起動した。」なんていうバカみたいなセリフが思わず口から出てしまう。

ゆっくりとメイドロボットの唇が開かれる。何か言うのだろうか。こう言う時は起動した


「ご主人様......。」


ご主人様!?初めて言われたわそんなこと。やはりこの娘はメイドであるようだ。しばらく静止したのち、メイドは二の句をついだ。




ご主人様マスターが見え。」




最初に思ったことはやけに見えますの部分を強調して喋るなということだった。そして気づいた。古から口伝されし凍結魔法オヤジギャグをこの娘は口走ったのである。場は凍りつき、静寂のみが空間を支配している。


「......は、はは。なかなかユーモアがあるね、君。」


「そうですか。もっとユーモアが欲しいですか?」


「ああ、是非聴いてみたいものだ。できるなら僕が死んだ後くらいがいい。」


「ユーモアをユー、モアということでございますか?」


まただ。もう静寂という言葉ですらもこの静けさには敵わないだろう。体のぶれが床に伝わってきいきいと音が鳴っているのがやけにうるさく聞こえる。


「改めまして、ご主人様。私はダジャレにするロメイド、パンPunです。長い付き合いになると思いますので、是非ともよろしくお願いいたします。」


そういう個性の人工生命体であるとして諦めよう。ダジャレを言い続けても日常生活に支障はきたさないはずだし。


「パンはパンでも食べられないパンは私でございます。」


......やっぱ支障きたすかも。



いや、この娘には料理をやってもらおうと思っているんだ。とっととそのことを伝えよう。


「パンさん、メイドとして僕の食事を作って欲しい朝昼晩全部。できるかな」


「当然、と申し上げたいところでございますが、私目覚めたてで網膜があまり働いておりませんので、必ずしできるとは限りませんよ。」


「それでも頼むよ。食事代も全然残ってないし自炊はできないし。君が頑張ってくれれば食事代が浮くから〜」


「分かりました。では早速......」


そういうとパンは台所へと向かった。ようやくオヤジギャグ地獄から解放されると思うと胸が空く思いがする。


しかし、それはただの錯覚に過ぎなかった。


野菜を切っている最中。

「いれてくださいませ。玉ねぎをくし切りにして、にんじんはにいい切りにしてしまいましょう。それでイモは乱切りどうじゃ?」


肉を切っている最中。

「この包丁、を非常に切りいですね。ご主人様マスターちゃんと研いで?」


フライパンで肉と野菜を炒めている時。

がフライを振っています。まず。まな板に張り付いて離れいのがいですね。火が通ったら、に玉ねぎ、にんじん、ジャガイモの順で炒めてしまいましょう。」


「飴色に玉ねぎがなりました。一旦つまみ食いをば。お、この色の玉ねぎ、ーわ。すみません発作ですので文脈にそぐわないダジャレ言っていいでしょうか。

玉ねぎオニオンに鬼おんの?』」



ダジャレの嵐を乗り切った先にようやく料理が。この匂いは肉じゃがだろうか。懐かしい香りだ。久しく食べていない故郷の味である。


ご主人様マスター、お食事が出来。」


なんだかもうダジャレにも慣れてきた。だってそれさえ無視すればこんなにちゃんと料理を作ってくれるんだから。ありがたいっちゃ。


「簡易的な肉じゃがでございます。所存でしたが、生と普通の野菜くらいしかなく......。」


「いや大丈夫。それにしてもうまそうだ。ありがとう、パンさん」


うま、ということでございますか?」


「もうそれでいいです......」


ほかほかと湯気が立っている肉じゃがを前に食欲を止められる人間はいない。そうだろう?


ジャガイモを一度口に放れば、なんともいえない弾力感が伝わってくる。そして噛めば噛むほどに旨みがじゅわりと口の中に広がる......。


「いや、最初にあんなギャ......ユーモアを言い出した時は驚いたけど、いい拾い物をしたもんだ」


「ええ、全くその通りでございます。パンは超究極神めちゃすごメイドですから。機能停止冥土から蘇ったメイドですし。」


機能停止。この型のロボットには珍しい。もともとこいつはメイドロボットだったのか?考えるのはよそう。第一僕は考古学者アーキオロジストでも歴史学者ヒストリアンでもない。ただの探索者エクスプローラーだ。


「......これからよろしくな、パン」


「こちらこそよろしくお願いいたします。ダジャレを言うのは誰じゃ、それはパンはパンでもメイドのパンなのです。」














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