その二

【柿ピー文芸】つまみ小咄

『左巻きの茶柱』


茶柱が立った朝、嫁が出ていった。


「ほら、見て! 今朝はええ日になるで」

と、湯呑の向こうで笑った顔が、

出ていくときも、まるで同じ顔やったのが、なんや腹立たしい。


左巻きに湯を注いだのが、あかんかったんやろか。


あの日から、俺の湯呑には、もう茶柱が立たん。

いや、立ってても、見んようにしてるだけかもしれん。


だけど、ある朝――

ぐるぐるとかき回した緑のなかに、まっすぐな芯が浮かんでいた。


その柱、ちょっとだけ、左に傾いてた。


それだけで、なんや救われた。



その二・完


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