Side ナブ 2
特に気になるのが、菜月くんだ。
チカのクラスメイトでチカの隣の席。チカの教室の前を通るときに、ちらりと中を見ると、チカと菜月くんが話をしているのを何度も見かけた。チカが菜月くんをパシリに使っているという噂も聞いた。よく翔くんのところまでパシらせているらしい。
菜月くんは、一年生で一番人気のある男子だと思う。
小柄だけど、目が大きくくりっとしていて、イケメンというより、美少年という言い方のほうがピッタリする容姿だ。
サッカーがべらぼうに上手いというのは翔くんから聞いた。
噂によると、サッカー強豪校からのスポーツ推薦の申し出をすべて断って、サッカーがそこそこ強いというレベルのこの公立高校に一般入試で入学したらしい。
普段からあまり感情が表に出ず無口で、普通の人なら、根暗とか陰キャとか言われるところだけど、そんな彼だから、クールで素敵となり、男女問わず憧れている人も多い。
そんな有名人だから、クラスメイトも声をかけたいのだが、いかんせん無表情で何を考えているのかわからない。皆遠くから様子を伺っている状態だ。
そんな菜月くんにチカは話しかけ、雑談をしている。
周囲も興味津々だ。彼がどんな話をするのか、みんな密かに耳をそばだてている。
チカのことだから、自分たちの会話にクラス中が興味を持っているなんて思ってもいないだろう。
ところが、チカと菜月くんの話の内容は微妙にずれているらしい。いや、違うよ、と周囲はツッコミたいのだが、菜月くんがどういう反応を示すのがわからないので、それすらもできない。
それがある日、勇者が現れた。
チカの前の席に座る女子がツッコんだらしい。クラス中が固唾をのむ中、菜月くんは怒ることなく、さらにボケたらしい(もしかしたら、本人は大真面目なだけだったかもしれないけど)
その瞬間、クラス中が思った。あ、ツッコんでよかったんだ。
それがきっかけで、クラスメイトが少しづつ話しかけるようになった。
それまでは、いつも一人でいることが多かったけど、クラスの男子と一緒に行動しているのを見かけることも増えた。
翔くんにそのことを話したら、友達ができたことをとても喜んでいた。
「サッカー部でも、最初、チームメイトとなかなか打ち解けられなかったんだよ」
過去形で話すのを聞いて、おそらく、サッカー部では翔くんがいつものように無意識にとりなしていたんだろうなと思った。
菜月くんがクラスで馴染めるようになっても、あいかわらずチカと菜月くんはどうでもいい雑談をしている。
僕は心配になる。
菜月くんはチカを好きなのではないか。
今までもそういうことはあった。でもチカの脅威の鈍さでそれをすべてかわして来た。
しかし相手は学年一のイケメンだ。
翔くんに相談したことがある。
「俺も、もしかしたら菜月はチカのこと好きなのかな、と思ってんだよ。
俺の弁当をなぜか菜月が教室まで持ってきてくれるから、チカのパシリなんてしなくていいと菜月に言ってんだけど、好きでやっていると返されるしさ。部活で友達にチカのことを話してると、チカに頼まれていると言って止めに来るし」
翔くんは僕を見て心配そうな顔をした。
あの二人の関係はよくわからない。
二人は会話をとくに隠していないので周囲に丸聞こえだ。その内容も、一番かっこいいサメの種類とか、なぞなぞを出したりとか小学生のような会話で、とても恋人同士のものとは思えない。しかも菜月くんはチカを、
チカは、翔くんのお弁当を菜月くんに届けさせているけど、菜月くんは嫌がる素振りを見せない。むしろすすんでパシられているようにも見える。
チカに一度訊いてみたときは、チカは目を剥いて驚いていた。本人はパシリのつもりはなかったらしい。じゃあなんで菜月くんに頼むのかと聞いたら、視線を外し言葉を濁らせた。
こんなことは初めてだ。なんだかすごく嫌な予感がする。
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