Side ナブ 3 【完】
翔くんとチカと例の男子生徒たちが集まってテスト前の勉強会をするというので、無理やり参加した。
よくわからないまま呼び出されたらしい翔くんとチカは不思議そうな顔で二人で小声でなにか話している。おそらく、なんでこうなったのかを確認しあっているんだと思う。こういうときは兄妹そっくりだ。
間宮先輩が僕を見て
「君も来たならミチカちゃんと菜月を頼んでいい?」
と言うので請け負った。チカを名字ではなくミチカと呼んでいることが気になった。
翔くんの両隣には間宮先輩と折原先輩が座った。二人がかりで教えている。翔くんは二人のスパルタに泣きそうになっている。
菜月くんはその様子をしばらく見ていたけど、一年生の自分には出る幕がないと思ったようで、チカの隣に座った。少しイラっとしたけど我慢した。チカも諦めたようで教科書を用意する。
僕は二人の向かいに座った。こう見えて僕は特進科だ。普通科のチカたちより授業はずっと先に進んでいる。
「じゃあ、こっちは僕が教えるよ。何から始める?」
チカは昔から勉強を一緒にしていたので、得意不得意がわかっている。
問題は菜月くんだ。有名人なので噂は勝手に耳に入ってくるけど、実際に会話をしたことはほとんどない。どうしようかと思っていると、チカが菜月くんに向かって話しかけた。
「ナブは特進科でも成績上位にいるから、わかんないとこどんどん聞いても大丈夫だよ」
「へえ」菜月くんが僕を見た。
多分、初めて目があった。男の僕から見ても整った顔立ちをしていると思う。
「私がこの高校に入学できたのはナブのおかげだよ。昔はお兄ちゃんもナブに勉強教わってたくらいだし……」
「待て、チカ! 余計なこと言うな!」
翔くんが慌ててチカの話を遮るが、すでに遅かった。
隣りにいた間宮先輩と折原先輩が反応した。
「お前、年下に勉強教わってたのか」
「ちゅ、小学生までだって。ナブは名門の超進学塾に通っていたから勉強が進んでて……」
「今、中学って言おうとしただろ。なんでくだらない見栄を張るんだ」
チカはその様子見て肩をすくめると、こちらに向き直った。
「せっかくの機会だから、あっちは無視して勉強しようか」
僕と菜月くんは黙って頷いた。
勉強はスムーズに進んだ。菜月くんの無表情も最初は少し怖かったけど、彼は怒っているわけではなくて、そういう性格なのだと気付いたらすぐに慣れた。
もしかしたら、この性格でだいぶ誤解をされてきたのかもしれない。
菜月くんに、応用問題を訊かれて、ああ、これは難しいよね、と解説をした。
黙って説明を聞いた後、自分で問題に挑戦していた。しばらく悩んだ後、解けた、と小さくつぶやいた。
僕が答えを確認して「正解」と言うと、無表情な口元が少し緩んだ。
あ、と僕が言って黙ったので、菜月くんは不思議そうにこちらを見た。
「ああ、ごめん。意外と感情が表に出るんだね」というと、「そうかな」と片手で口元を覆った。
もしかしたら照れているのかもしれない。
僕と菜月くんがそんなことを話しているのを、チカは嬉しそうに見ていた。
しばらく勉強をして、そろそろ終了しようということになった。
「勉強教えてくれてありがとう。ナブならお兄ちゃんたちの方に入っても全然ついていけたんじゃない? 付き合わせちゃってごめんね」
チカが申し訳無さそうに言う。
いやむしろ、僕はチカのそばにいたいんだけど、と思ったが黙っていた。
視線を感じて横を見ると、翔くんたち三人がそれぞれ哀れみを帯びた目で僕を見ていた。
なんで、僕の気持ちを知ってるんだ。
間宮先輩と折原先輩なんて会話をしたことすらほとんどないのに。
翔くんは、そういうことを他人に言う人ではない。
ということは、そんなに僕の好意はわかりやすいか。そしてなんでチカにだけは伝わらない。
もしかして、と菜月くんを見た。
彼はこの空気に気づくことなく、黙々と教科書を片付けていた。
よかった。彼にだけは気づかれたくない。なんとなくそう思った。
それからしばらくしたある日、翔くんから、間宮先輩と付き合うことになったと報告を受けた。
内緒だぞ、と恥ずかしそうに言う翔くんはとても幸せそうだった。
学年が違う間宮先輩と翔くんの距離が近かったのはそういうことだったのか、と今更ながら気付いた。
と同時に、チカは関係なかったのかと安心した。
そのときに、「菜月がチカを好きだというのは俺の勘違いだった」と訂正された。
その時の顔が一転してものすごくつらそうだったのが気になった。
映画館で新作サメ映画が上映されるのを知って、いつものように映画に誘った。
昔から何度も誘って、いつも三人で観に行ってたのに、なぜかチカはうろたえた。
「でも、お兄ちゃんは間宮先輩と……」
間宮先輩を入れずに、三人で観に行くのがだめなんだろうか。
なら四人で行けばいいし、なんなら僕はチカと二人でも全然かまわない。
翔くんに話をしたら、間宮先輩も入れて四人で行こうと提案してくれた。
チカは間宮先輩と小声でなにか話している。
近い距離で、僕に聞こえないように会話をしているのが嫌で、二人の間に入る。
「じゃあ、チカ、四人で行こう」
チカはなぜか少し考えて
ナブがいいなら……、と了承してくれた。
ほんと、ナブもサメ映画好きだよねぇ、と嬉しそうに言うが、僕がサメ映画を好きなのは、チカがサメ映画を好きだからだ。
翔くんと間宮先輩が哀れみを帯びた目で僕を見ていた。
チカのクラスで、席替えがあり、チカは廊下側の一番前に変わった。
教室の入口のすぐそばなので、廊下を通るときにちょこちょこ覗いて声をかけている。
この間通りかかったら、チカの席でチカと菜月くんが雑談をしていた。
菜月くんは、最近一気に背が伸びた。それに合わせて顔つきも男らしくなり、美少女とも噂されていた面影は失われつつある。
ちょっと嫌だったので、その雑談に僕も無理やり混ざった。
菜月くんは、少し驚いた顔をしたけど、別に嫌がることもなくしばらく三人で会話をする。
もしかしたら僕は無意識に菜月くんと張り合っていたのかもしれない。
菜月くんは、僕をじっと見て、次にチカを見た。
そして僕に、哀れみを帯びた目を向けてきた。
もしかして、とうとう菜月くんにもバレたんだろうか。
そして、なんでチカはまだ気づかない。
【 完 】
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
[No.2]
BLゲーム主人公の妹に転生してしまったので、サポートキャラになることにした 堀多 ボルダ @2019R01
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