8(2)
ナブからは映画に誘われた。私達兄妹が好きなサメ映画だ。
サメ映画は映画館の大画面で見たい派なので、今までも三人でよく行っていたが、もしかして私は邪魔だったんだろうか。
しかしサメ映画は見たい。
悩んだ結果、三人でサメ映画を見た後は、用事があるとさっさと一人で離脱した。
ナブが、私を邪魔者扱いすることなく、残念そうな顔をしてくれたのがありがたかった。
攻略者同士がライバル意識を燃やして、それに巻き込まれることもあった。
攻略者全員が勢揃いした勉強会になぜか私も強制参加させられたのだ。
前日に、兄の部屋に数学の問題を教わりに行ったら、兄はしばらく悩んだ後、「少し待って」と私を部屋から追い出した。数分後、自信満々に教えに来たが、その手にはスマホが握られていたことは見なかったことにしてあげた。
その翌日が勉強会だ。おそらく私が原因だろうが、明らかに私は場違いだ。しかもなんで攻略者全員集合なのか。なぜこうなったのかさっぱりわからず兄にこっそり理由を訊ねたが、兄も「なんか気がついたらこうなってて……」と首を傾げた。
このあたりが主人公なんだろう。
攻略者たちと接する機会が増えると、私の心境にも変化が出た。
間宮先輩は完璧な人ではないし、折原先輩は噂のように女たらしじゃない。菜月くんは一人が好きなわけでもないし、ナブは優しいだけじゃなくて私が思っている以上に強さを持っていた。
ゲームの存在を気にするあまり、キャラの一人として画一的に見てしまっていた彼らだったけど、たしかにこの世界に存在する人間で私にとっての現実だ。キャラクターデータとして数行で表されるような薄っぺらい人たちなんかじゃなかった。
そんな感じの毎日を過ごしていれば、他の女子生徒たちからやっかみを受けるのは当然だと思う。
攻略者たちのファンと思われる女子生徒数人から呼び出しを受けた。
「あなた、間宮先輩たちにチヤホヤされて勘違いしてないでしょうね?」
乙女ゲームのテンプレのような問いかけに、顔には出さないが少し感動した。
「あの……、私が先輩達に何て呼ばれているかご存知ですか?」
女子の皆さんは私の返しが予想外だったようで、みんな揃って首を傾げた。
「妹、です。名前で呼ばれていないんですよ」
「妹?」
中心に立つ女子生徒が怪訝な顔をする。
「〝妹〟と声をかけられます。菜月くんはクラスメイトで隣の席なのに妹呼びです。あの間宮先輩ですら〝常磐の妹〟呼びです」
女子生徒たちの中の何人かが声を出して笑った。
間宮先輩は紳士なので、相手が誰であっても丁寧に名前で呼んでくれる。妹呼びはおそらく私だけだろう。
女子生徒の集団の中から、まあ、常磐くんだしねえ、という声と、それに同調するような楽しげな笑い声があがった。
兄よ、どういう立ち位置なんだ。
「何が言いたいかと言うと、あの人達にとって私は兄の妹なだけなのです。だから皆さんが心配するようなことにはなりませんので、ご安心ください」
この説明が功を奏したのかどうかはわからないが、女子の皆さんはそれ以上何も言わず私を開放してくれた。
これ以降、私は女子生徒たちからは「対象外のかわいそうな女子」と、むしろ同情されているらしい。
……まあ、その通りだから別にいいけど。
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