その日から、攻略対象者たちから声をかけられるようになった。


最初は、大好きな兄の妹だからだろうと思っていたが、私は気付いた。

もしかして、攻略対象者が私にかまってくるのは兄がポンコツだからでは?


 兄を見ていて気づいたことがある。

それは、兄に恋心がまったく伝わっていないということ。

恋愛ゲームという性質上、攻略した相手からアピールをされているはずなのに、恐ろしいほどに鈍感な兄はさっぱり気がつかない。


 学校生活では時々、間宮先輩と折原先輩、それと兄が一緒にいるのが目撃されている。イケメン二人とペット的役割の兄が楽しそうにしている姿は、女子生徒の癒しになっているらしい。

私も、偶然見かけたことがある。

遠かったので、話している内容はわからなかったけど、折原先輩が何かを話したら、兄がそれに反応して、それを間宮先輩が諌めているような、そんな感じだった。その後に、折原先輩と間宮先輩が兄の頭上で軽く睨み合っていたような気がする。


 まだ数回しか会ったことがないけれど、間宮先輩と折原先輩、この二人の関係は不思議だ。恋のライバルというより、ただふざけてからかい合っているだけのように見える。お互い張り合っているけど、仲が悪いわけじゃなくて、むしろ、兄のことがなければ気のあう友人になれていたかもしれない。


なんとなく、見てはいけないものを見てしまったような気がして、慌ててその場を去ろうとしたら、折原先輩と目が合ってしまった。

私の目がぐるんぐるんと泳ぐ。折原先輩はそんな私を見ながら、兄の頭に手を置いた。すかさず、間宮先輩がその手を跳ね除ける。兄は頭上で何かやっているなーという風に気に留めない。

妹の前で何をする気だ、とオロオロする私を見て、折原先輩は口角をあげると、私を手招きした。

それで、後の二人も気づいたようで、みんなで手招きをする。

三人とも笑っているが、正直怖くて行きたくない。私は胡散臭いまでもの満面の笑みを浮かべ、職員室の方角を指差し、用事がありますアピールをして、踵を返した。




それ以外の一年生たちは、菜月君は同じサッカー部、ナブは幼馴染という、それぞれのアドバンテージを利用して、別の方向から攻めているように見える。このあたりも恋愛ゲームっぽい。


 菜月くんは、兄と一緒に朝練を始めたらしい。兄がいつもやっている朝練はただの自主練習なので、練習仲間が増えて兄も嬉しそうだ。


 ナブは、以前から我が家によく訪ねてきていたが、その頻度が増えた気がする。

平日、兄が部活で忙しい時は、私の夕食作りを手伝ってくれる時もある。ちなみにナブも私より料理がうまい。

私の雑な料理と違って、レシピ本にも載せられそうな繊細で凝った料理を作るので、兄も母もナブが作った料理をを一目で見抜く。

もともとスイーツはよく作ってきてくれていたのだけれども、それに夕食が加わった感じだ。

兄の胃袋を掴もうとする作戦だと思うけど、残念なことに一番胃袋を掴まれているのは兄ではなくて母である。




そんな水面下での恋の鞘当てが繰り広げられているにもかかわらず、その中心にいるはずの兄は平和だ。

事情を知っている私ですら辟易するほどに、兄は主人公特有の耳の遠さと鈍感さを否応なしに発揮している。

攻略者たちは気づいたのだろう。このままでは兄に思いは伝わらないと。


そんなときに現れたのが、兄が溺愛している妹、つまり私だ。


兄との仲がなかなか縮まらない攻略者たちは思い至る。

妹を手懐ければいいのでは? と。

将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。つまり私は馬である。


 よし、こうなれば私が乙女ゲームでいうところのサポートキャラを務めてあげようではないか。

私は特定の誰かを兄とくっつけようとかいう気持ちはない。

ただ、攻略者たちのアピールが兄に届くようにしてあげるのだ。


乙女ゲームで鍛えたこの頭脳、ゆっちゃんに捧げようではないか。

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