週明けの月曜日、学校に行こうと家を出ると、ちょうどナブに会った。

あいさつもそこそこに、体調はどう? と心配してくれた。

「もう大丈夫。いろいろありがとう」

とお礼をいうと、ホッとしたような笑顔を見せた。

そしてすぐに周囲を見渡す。


「翔くんは?」

ナブの質問に、私は確信をする。

やはりナブは兄が気になるのだろう。さすが攻略対象者。


「サッカー部の朝練。練習試合が近いんだって」

「へー。翔君、がんばってるんだなあ」

そうそう、ナブは兄をいつもすごいすごいと褒めてるしね、うんうんと私は頷く。


 改めて思い返してみると、ナブは小さい頃から私以上に兄を慕っていた。

小さい頃のナブは小柄で体が弱かったせいか、いじめられることもよくあった。でもそのたびに兄がナブの前に立って守っていたし、引っ込み思案なナブを引っ張り回し、男の子同士の遊びにも付き合わせていた。

そりゃ兄に惚れるのも仕方がないよなあ、心の中で納得して頷く私を、ナブが不思議そうな顔で見ていた。



 学校に到着してナブと別れると、間宮先輩に会った。

お礼を言わなきゃと思っていたから、ちょうど良かった。先日のお礼を言うと、私の体調を気遣ってくれた。

「兄妹揃ってお騒がせしてすみません。兄はどうも心配性で」というと、間宮先輩は学校中の女子生徒を魅了する美しい笑みを浮かべた。

「妹さんをかわいがっているのは知っていたから問題ないよ。でも思った以上にシスコンだったね」とあのときの兄を思い出したようで苦笑していた。

別れ際、お大事に、と鉄分キャンディをもらった。



 教室に入り、自分の席にカバンを置くと、隣から視線を感じてそちらを見る。

視線をよこしたのは、菜月君だ。実は同じクラスの隣の席なのだ。とはいえ、菜月くんは無口で無表情なので、いつも会話は最低限だ。

さっそく先日のお礼を言う。


「いや、俺何もしてないよ」

ボソボソと感情の読み取れない声で話すのが菜月くんだ。

「兄の伝言頼まれてたでしょ。そして何より兄があんなのでごめん」

「常磐先輩のシスコンは部内でも有名だから、別に……」

「え? お兄ちゃん、サッカー部でも私のこと話してるの?」

私が食い気味で聞き返すと、菜月くんは驚いたように目を見開いた。

「え? まあ、妹が可愛いとか、お弁当作ってくれるとかそんなの」

「うわあああああ」恥ずかしすぎて変な声が出た。赤面して両手で顔を覆う。

「菜月くん悪いけど、次にサッカー部で私のことを話していたら、全力で兄を止めて。殴ってでも止めて」

憔悴した顔で言うと、菜月くんは、可哀想なものを見るかのような顔で頷いてくれた。


 始業までまだ時間があるので、お弁当を持って兄の教室に向かう。

兄の教室の前で、折原先輩が声をかけてきた。

「おはよう、妹ちゃん、体調はどう?」

「おはようございます。先日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。お陰様で体調は戻りました」

「そう、よかったね。ところで二年の教室に何か用? 翔太?」

「ええ、でも見当たらないので……。すみませんが、このお弁当を兄に渡してもらえますか」

「弁当?」

「ええ、朝練で朝早く家を出たので、お弁当間に合わなかったんです」

へえ、と物珍しそうにお弁当を受け取ってくれた。

「兄貴に会わなくていいの?」

「兄に会うとめんどくさくなるので……」

「ああ、確かに」

そこで遠くから私の名を呼ぶ兄らしき声が聞こえてきた。

「あ、やば……、そ、それじゃあ、すみません。教室戻ります」

兄の声とは逆方向に向かって全力で逃げた。背後から折原先輩の、妹ちゃん早く逃げろと楽しそうに言う声が聞こえてきた。

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