前世を思い出したのが金曜日でよかったと思う。

おかげで週末、家でゆっくりと前世を受け入れることができた。


これには、兄、母、ナブの力が大きかったと思う。三人が心配してくれて誰かが常にそばにいてくれて、前世に引っ張られそうになっても、今の生活にとどまることができた。

日曜日にはすっかり気持ちは落ち着き、前世と今の生活を切り離して考えられるようになった。


 翌日の学校の準備をしながら、ふと、これからのことを考えた。


兄がゲームを順調に攻略しているのなら、おそらくゲーム内に私の役目はないのだろう。

邪魔をしないように、念の為、現状を軽く把握しておいたほうがいいかもしれない。


キミボエの攻略対象者は、前世の友人ゆっちゃんの推しである間宮先輩しか知らないけど、あの日、保健室に来てくれた人たちはおそらく全員攻略対象者だろう。高校の有名人なので、噂話ぐらいなら私の耳にも入ってくる。


攻略番号1。間宮先輩。高三で、生徒会長。眉目秀麗、成績優秀を絵に描いたようなスパダリ。


攻略番号2。折原先輩。二年生で兄のクラスメイト。常に女性に囲まれているチャラ男。


攻略番号3。菜月くん。高一。兄と同じサッカー部の後輩。無口無表情な年下天然系。


最後に攻略番号4。桜野学くん。愛称は〝ナブ〟。高一。私達兄妹の幼馴染で、女子力高めの幼馴染。



なんと、乙女ゲームにありそうな攻略対象キャラが勢揃いしている。

そして、キャラの違う攻略対象者たちをまとめて落としている兄が凄い。


そんなことを考えていると、兄がやってきた。

兄の元に、間宮先輩と折原先輩から私を心配する連絡が入ったので、大丈夫と返信しといたとのことだ。

念の為に、菜月にも連絡しといたぞ、と付け加える。

こういうときの兄はとても律儀だ。


そういえば、と、ついでに兄に聞いてみる。

「お兄ちゃん、あの人たちと仲が良いの?」

「おう。みんないい奴なんだよ。でももしチカの彼氏になるとかいうなら話は別だからな、ちゃんとお兄ちゃんに相談しなさい」

と見当違いの方向に釘を刺す兄を見ていて、私は重大なことに気づいてしまった。


兄は攻略対象者からの好意にまるで気づいていない。

いや、好意には気づいているだろう。でもそれは友情的なものであり、ラブではない。

兄、なんて罪づくりな……。でも、恋愛ゲームの主人公なら当たり前の仕様なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る