爆弾

あの人は、炎のような人でした。

命を削るように燃え盛り、誰よりも熱く、誰よりも美しく、瞬く間に世界を染め上げる烈火のような人でした。

この青空に広がる夢に私は魅せられていました。

あの人の見る景色を、あの人の願う未来を、私はただその背中の向こうに追い求めていたのです。

燃えさかる炎の熱に私だけが焦がれていたい。

灼けるような眩しさに私だけが奪われていたい。

決して交わらぬ距離でただあの人の存在に焼かれたい。

あの人の目が見据える未来を、あの人の声が語る理想を、私はただその大きな背中に縋り付いていたのです。

決して届かぬと、決して触れられぬと、とうの昔に知っておきながら。


あの人に会う日は、私にとって世界で唯一の祝祭でした。

あの人に会う日は、私にとって幸福の全てでした。

あの人にとっては日常と呼ぶものでも、私にとっては永遠に刻まれる一日でした。

何も知らないままでいい。

私のことなど知らなくていい。

ただそこにいてくれるだけでいい。

それだけでこの命の意味は満たされる。


それほどまでにあの人は、私の人生を変えてしまったのです。

いつしかあの人が、私の生きる理由になっていたのです。

私はただ願い、ただ信じることしかできない。

あの人がいつか夢を叶える瞬間を。

あの人が燃え尽きるその瞬間まで誰よりも美しく燃え続けることを。

この心はただ焦がれ続けるためにあるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生きたい。 存在しない空 @ixinn_o0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ