太陽
あの人は太陽のような存在でした。月が眠り太陽が目を覚ます。今は午前六時三十分。今日は休みだから少し遅くまで寝ていられる。とは言っていたものの結局のところ私はこの時間に目を覚ますことを心の奥底では知っていたのです。まだ昨晩の名残を体内に残したままベランダへと足を向け太陽の光を浴びながら煙草をくゆらせる。これはもう私の日常となっていました。あの人に出会う前に私は煙草を完全に辞めていたはずです。はい、それはもうきっぱりと。あの人は私にとってそれをも忘れさせる存在でした。あの人は今もまだ眠っていてベッドの上で私の温もりを求めるかのように腕が何度も何度も空いているスペースをさまよっていました。あぁ、なんと愛おしい人だろうか。あの人の全てが息をするたびに愛おしく感じる。この五分という短い時間が私にとっては至極の幸せなひとときなのです。
あの人は太陽のような存在でした。眩しすぎて目が離せないのです。どんなに目を閉じても瞼の裏にその姿が映し出されまるで私の中であの人が存在し続けることを忘れさせないかのように目の奥でそれはもう眩く輝いているのです。私は何度も何度もあの人に心を焼かれました。あの人は私よりも三週ほど早くに産まれました。私は彼の背丈も体格もそして持っているもの全てに深く憧れを抱いています。少しだけ嫉妬をしたこともあります。でもそんな自分を嫌いながらもあの人が愛しいのです。何よりも愛おしくてたまらないのです。あの人は甘えたがりのような子供みたいに私の胸に頭を預け体を小さく丸めては私の腕にすっぽり収まり穏やかな寝息を立てながら眠ります。その短い髪が私の鼻をくすぐるのが愛おしい。抱きしめたときの体温が愛おしい。寝顔寝言寝息何もかも彼を形成する全てが愛おしい。毎朝私が少しだけ早く目を覚まします。そしてあの人は私の温もりが冷めてきた頃にようやく目を覚まします。これもまた私の日課となっていました。今朝も私は朝食を二人分作りました。ご飯を炊き魚を焼き野菜たっぷりの味噌汁を作りデザートにはフルーツを添えたヨーグルトを用意しました。簡単なものばかりではあるけれどあの人はいつも満面の笑みを浮かべては「美味しい、美味しい」と頬を膨らませては米粒ひとつ残さずに食べてくれるのです。その幸せそうな顔を見るためだけに私はいつもあの人より少しだけ早く起きるのです。あぁ、愛おしい。あの人の全てが愛おしい。この永遠に続くかのような朝日の眩しい時間が私にとっては何にも変え難い至極幸せな時間なのです。
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