生きたい。
存在しない空
遺書
あの人は光のような存在だった。いや、光などではない。もっと強く眩しく熱くすべてを焼き尽くす太陽そのものだった。私の肌を刺し目を眩ませ喉を乾かし心臓を焦がした。どうして出会ってしまったのだろうかどうして見てしまったのだろうかどうして知ってしまったのだろうか。何も知らなければよかった。何も知らなければ私は穏やかに死を選べたのに。あの人に触れあの人を感じその存在に引き寄せられてからというものすべてが狂い始めた。
だからこれを私の遺書とする。これを貴方への恋文とする。
愛と憎しみを込めて。
死は私のすぐ隣にあった。死はいつも私を見つめていた。私を包み込むように優しく呼びかけていた。もういいのだと何もかも終わらせてしまえばいいのだと生きることに何の意味も見いだせないまま私はただ流れるように歩いていた。どこへ向かうでもなく何かを求めるでもなくただ静かに世界から薄れひっそりと消えていくことだけを考えていた。私の人生など何の価値もない。誰の記憶にも残らず風に紛れて消えてゆく。
けれど貴方が現れた。貴方が私を見た。貴方が私を掴んだ。貴方が私の頬を撫でた。その瞬間に私の世界が崩れ去った。貴方を知ってしまった。貴方の声を聞き貴方の温もりを感じ貴方の眼差しの中に私が映るのを見た。何もかもが変わってしまった。死の淵に指先をかけながらそれでも私は貴方を求めている。私は貴方に触れたいと願っている。あぁ、私の中に生まれてしまったこの感情は何なのだろう。ただ貴方の腕の中でただ貴方の心の臓の中心で私は生きていたいと強く強く願ってしまったのだ。
風が吹く蝋燭の炎が揺れるように私の心も揺れ動く。ひどく脆く頼りなくけれどそれでも消えたくないと燃え続ける。死にたかった。ずっとずっと死を選ぶことこそが最も穏やかで正しい道だと思っていた。けれど今は貴方の腕の中でなら私は生きていたいとそんな馬鹿げたことを考えてしまう。あぁ、いやそれ以外に生を望む理由を私は知らない。貴方がいなければ私はやはり死を選ぶだろう。貴方と共にいられるのなら何度でも生き返ってみせよう。何度でも何度でも。だから貴方のその脳裏に焼き付くほどの眩い光で焼き尽くしてはくれないだろうか。それだけが私の生きる意味なのだ。
貴方が私を生かしてくれるのなら私は生に縋り、貴方がいないのなら私は死を乞う。それ以外に私の命の在り方はない。もし貴方が私を拒むのならそのときこそ私は死を受け入れるだろう。それこそが最も幸福な死だ。
貴方に抱かれ貴方に満たされ貴方と共に生きるために私はここに確かに存在している。私を貴方のものにしてはくれないだろうか。それ以外に私の存在の意味などないのだから。
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