第4章2

 文化祭まで、あと三週間。

 俺は学校の休みを生かして、レイキとホームセンターまで来ていた。

 屋台に使う木材や、釘を調達したいとのことだった。

 すでに設計図を引いてきたらしく、ホームセンターの店員を捕まえてあれこれ指示を出すレイキを眺めるだけであっという間に買い物は終わっていた。

 ホームセンターのお姉さんリザードマンがときめいた顔でレイキのことを見ていたけど、中性的で背もあるレイキだし、女性受けがいいのかもしれない。

 まあ、とにもかくにも俺に出る幕など何もなかった。


「付き合ってくれてありがとうね。シャッキン」

「いやいや、俺本当になにもしてないし」


 てっきり木材とか持つのを手伝うのかと思ったら全て宅配便で送れたらしく、完全な手持無沙汰だ。

 俺とレイキは二人買い物帰りの道を歩いていた。


「実は、シャッキンに来てもらったのは、ここに入りたかったからなんだ」

「ここは……ケーキ屋?」

「ああ、しかもこの店は二階で買ったケーキを食べられるんだ」


 小休憩ということだろうか。

 ちらっと財布を見れば、特に問題はない分のお金が入っている。


「じゃあ、行こうか?」

「本当か!」

「ん? ああ、少し休憩に入ろう」


 店に入ると、ショーケースに見栄え良くケーキが並んでいる。

 文化祭で餃子を出す手前、こういう置き方は難しいが何かイラストとか用意してもいいかもしれない。


「おお……!」


(めっちゃ見てる……)


 レイキはというとショーケースをじっくり眺めながら、楽しそうにどのケーキを買うか悩んでいた。


 ややあって、俺とレイキはそれぞれケーキと飲み物を買い、二階の席でさっそくフォークを握っていた。


「んー、ああ、甘い」

「それは良かった」

「ありがとうシャッキン。こういう店は一人で入るがなかなか難しくてな」

「ちょっと分かるよ」


 幸せそうにケーキを頬張るレイキ。

 俺としてはそこまで気にしなくてもいいとは思う。


「レイキって、結構人の目気にするよな」

「それはするさ。友人は皆あたしをかっこいいと思ってる。こんな姿は見せられない」

「そっか。レイキがそうならそうなんだろうな」

「含みがあるな」


 俺はケーキを一口、口に運びコーヒーをすする。

 ちょっとシンキングタイムだ。


「ギャップ萌えという言葉がある。イケメンやお堅い人が、イメージとは違うカワイイ趣味をしているとカワイイって、親近感がわくってやつだ」

「か、カワイイ……?」

「こうやって一緒にケーキを食べてると親近感が湧くという話。俺でも感じるってことはほかの人たちもきっと同じ風に感じると思うぞ」

「そ、そうなのか」

「恥ずかしいっていうのなら無理は言えないけど、こういう面も見せたって、大抵の友人は気にしないというか逆に好感が持てると思うぞ」

「ふーん……そっか」


 ひょいひょいとケーキを食べていくレイキ。

 俺も彼女にペースを合わせてケーキを進めていく。

 ちょっと甘めの口当たりがコーヒーにベストマッチしていて、満足度が高い。

 今度モカたちにも教えておこう。


 ケーキは瞬く間になくなり、少し残ったコーヒーはゆっくり楽しみ、頃合を見計らって俺たちは席を立ち店を出た。


「ありがとうなシャッキン」

「こちらこそだ。うまいケーキ屋教えてくれてありがとうな。今度部活のメンバーでこよう」


 そういうとレイキはなぜか少し困った顔をした。

 何か変な事でもいってしまったのだろうか。


「まったくお前はそういうやつだよ……」

「どういうことさ」

「シャッキンはシャッキンだって」

「お、おう?」


 店から出たレイキになんか変なことを言われたが、別に怒られている訳でもないし、俺は曖昧に言葉を返した。

 その後は何かあるわけでもなく、レイキとの買い出しは終わり、俺は学校の寮へ帰ることにした。


 怒ってなければ案外可愛いし、なんかその面を出せないのはもったいないという気持ちと、これを知っているのは数少ない友人の中に自分がいるのかというちょっとした特別感がこみ上げてきて、俺は軽く頬を掻いた。

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