第4章3
文化祭まであと二週間。
このところの俺はレイキの手伝いをしつつ、五属性餃子の調整を続けている。
今日はレタとその餃子の試食の日だ。
「これは綺麗ですね。五色の花弁の花みたい」
レタに出した餃子は五色、水属性の黒、火属性の赤、土属性の黄、金属性の白、木属性の青……はちょっと難しかったので緑だ。
それぞれ、ゴマ、唐辛子、カボチャ、ほうれん草の粉末を練り込んで皮の色としている。金属性の白だけ何も入れてないのでちょっと手抜きだが。
それぞれの中身も各属性をのばしやすい具材をチョイスした。
「とりあえず服は弾けるようには作っていないから、水、火、金の順番で食べてみてほしい」
「わかりました。まずはこの黒いのから――。これは海鮮ですね。魚介のうまみが深い……。このしょっぱさが絶妙で次に―――んっ!?」
レタの体がビクンと震える。
水属性の餃子に込めたのは極小のウォーターボール。
ただし魔法は目から出る。要は涙がドバドバと出てくる感じに仕上げてみた。
「涙が止まりません……やだ、恥ずかしい……」
目元が赤くなり、拭っても拭っても止まらない涙に苦戦しつつもレタは次の赤い餃子に箸を伸ばす。
「辛い、これは、キーマカレー……! しかも皮からも爽やかな辛みが……ん。ふあぁーー!」
ぼぁあっと炎を吐くレタ。
火属性の餃子はカレーパンよろしくカレー餃子。かみしめるたびに辛さが餡から皮から口に広がり、それがさらなるうまみを呼ぶ餃子だ。
込められた魔法は毎度おなじみの口から火を噴く魔法。
ただし、餃子という小さい容量だから出せて一発。しかもサイズもそこまで大きくない。
「ナナトウ先輩、なんか私のことじっくり見ていませんか?」
「いやいや、そんなことはないけど……まあ、やっぱり自分の料理にリアクションがあるのは嬉しいんだ」
「そうなのですね。じゃあ私も張り切って残りを食べていきます」
レタは、なぜかやる気が出たようで、張り切りながら白い餃子に箸を伸ばしていく。
次の餃子は金の属性、目からビームのような光が出てくる魔法だ。
ビームとはいったが、破壊力は一切ないただの光なので比較的安全だ。
「これはネギの甘みとショウガで占めるオードソックスな味わい。……目が、ひゃー、目がー!! ナナトウ先輩」
狙い通りに目からビームを出すレタ。
美人がビームを放っているものすごく面白い光景なのだが、欲を言えばもう一歩欲しい。
『目からビーム』とか、『うまいぞー』とか、いやさすがに高望みか。
「あははは、楽しいですね。次はどんな餃子なのですか?」
「食べてみればわかる」
「はい」
レタが緑の餃子を口に運ぶ。
「苦い……? でも爽やかな甘みが隠れていて、優しい味。んあ!? あれ、前髪が?」
慌てて、わたわたと前髪を分け直すレタ。
木属性は成長、最初は身体の一部を大きくすることを考えていたのだが、痛そうだったので髪にした。
「髪が少し伸びている……。おかしいけど、どこか優しい魔法ですね」
魔法にやさしいも厳しいもあるのだろうか。
いや魔法に詳しい彼女のことだから、きっとあるのだろう。
優しい魔法か。
「最後は土属性ですね。これはあんこが入った甘いお菓子みたいな。ふわ!?」
ぽんとコミカルな煙が現れ、レタの目の前に、石の人型が落ちてくる。
コロンとテーブルに転がる人型は全六種類、ランダム排出だ。シークレットとか細かな設定はさすがにできなかった。
「ころころしたお顔が可愛いですね」
四角い顔に、丸と三角で表情を作ったそいつは俺が子供の頃に見ていたテレビに出ていたキャラクターだ。
……正直、思い出の中のキャラクターとはだいぶ違うので、彼をリスペクトしたオリジナルということにしておこう。
俺のデザインセンスではこれ以上のものは作れないし。
「というわけだ。魔法が発動したということは味も問題はなさそうだし、魔法もまずいのは出なかったし、大丈夫そうだな」
「はい。あ、これもらってもいいですか」
そういうレタの手には先ほど生まれた土魔法の人形が握られている。
「別にいいけど、気に入ったのか?」
そうなると俺のデザインセンスも馬鹿にできないなとちょっと胸を張りたくなる。
「ナナトウ先輩知っています? エルフにとって、魔法で作られたものを相手に送るというのは好きだって告白したことになるんですよ」
レタ少し頬を赤らめて、石の人形を見せつけてくる。
すかさず俺もツッコんだ。
「さすがにそれは嘘だろ、だって喧嘩して魔法打ち合ったらどうなるんだ?」
「いちゃついてるってことになりますね」
「なるんかい」
ということは、俺は今、意識せずレタに告白したということなのか?
え、いや、さすがにそれは悪い気がしてならない。
俺が眉間にしわを寄せていると、レタは我慢しきれず笑い出した。
「でも、ナナトウ先輩はエルフじゃないですからね。セーフです」
そのセーフがどういう意味なのか。アウトだったらどうなってしまうのか。
思わず聞いてしまいたくもなったが、でもそこから先は曖昧にぼかしてもいい気がした。
それは、最初に出会ったころよりレタがずいぶんと楽しそうだから。
今の関係が楽しいからかもしれない。
「セーフか」
「ふふ、はい」
その後、レタからの提案をいくつか受け、提出する料理のプランを修正した。
あとは材料費を言ったら予算を軽く超えてしまっていたので、結構しっかり怒られてしまった。
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