4-(1) これまでの全ては
夜以外に僕から彼女の元へ向かうのは初めての事であり、同時にこれが日夜問わず最後の訪問だった。マリーは最初こそ驚いた表情を見せたものの、すぐに僕の意図を察したように寂しげに微笑した。マリーは僕を家の中に入れる素振りを見せなかった。僕もその気はさらさらなかった。元から玄関先で全てを終わらせるつもりだった。
僕は、久しぶりとも何も言わないマリーに、商店街で購入したチョコレートが入れてある紙袋を差し出した。マリーには恩もあったので、せめて礼の品物くらいは渡すのが礼儀だと考えての事だった。マリーはそれを受け取ると、笑顔を崩さないまま、言った。
「全く、ホントに酷い人ね。去る時に女に物をあげるなんて」
「悪い。こういう時どうすれば良いのか悩んだ末こうなった」
「生真面目なんだから……」
そう口にするマリーの瞳は、何故か潤んでいた。そして普段の飄々とした様子とはうってかわり、真剣なそして同時に寂しそうな眼差しで僕に問いかけてきた。
「ねぇ、最後に教えて欲しいの。アナタの内側は硬派なのに、どうしてこれまで私達みたいな連中と夜遊びしてたの?」
マリーは、まるで今生の別れを惜しむような口振りでそう問うた。僕は、そのマリーの最後の質問に応えることなく、別れの言葉を口にする。
「あの日僕を助けてくれた事、感謝してる。これまで世話になった」
マリーの張り詰めた空気が一気に崩れ、代わりに失望の面持ちを見せた。それでも彼女は僕に文句を言うことなく、「元気にしてるのよ、バイバイ」とだけ言い、静かに家の中へ去っていった。最後のマリーの失望の眼差しには、さすがに少し罪悪感を覚えた。
だが、そんな事いちいち気にする程、僕は彼女と精神面の交流をはかっていない。マリーとの最後の会話を終えた僕は、そのまま自宅へ戻った。他の女達にはもちろん何も用意しておらず、別れの言葉を言う気力も無かった。ただ“彼女”が傍にいる感覚さえあれば、他に何もいらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます