第37話-古都の闇、知性を持つ連結者-

半透明の人影は、低い声を発した。それは、直接意識に響くテレパシーだった。


『……異質な光……偉大なる者バリキーの絶対なる意志の前には……無力……』


その声は、以前の連結者たちが発した機械的な響きとは異なり、どこか冷徹な知性を感じさせた。まるで、こちらの思考を読み取っているかのような、不穏な感覚が私を襲う。


「あれが……知性を持つ連結者……!」


美咲は、警戒の色を露わにした。その隣で、白石先生は戦闘用デバイスを構え、周囲のエネルギーを慎重に解析している。健太は、手に持った対抗結晶をしっかりと握りしめ、いつでも使えるように準備を整えていた。


半透明の連結者は、ゆっくりと私たちに近づいてくる。その動きには、以前の連結者たちのような単純な攻撃性だけでなく、どこか策略めいたものが感じられた。周囲の黒い靄が、連結者の動きに合わせて濃さを増し、視界を遮っていく。


「花梨さん、無理に近づかないでください! あの存在は、精神に直接干渉してくる可能性があります!」


白石先生の警告が響く。私の内なる温かい光が、この空間の負のエネルギーと衝突し、わずかな抵抗を受けているのを感じた。


連結者は、私たちとの距離を保ったまま、その半透明な腕をゆっくりと上げた。すると、周囲の黒い靄がその腕に吸い込まれるように集中し、黒い鎌のような形を成した。それは、以前の騎士が持っていた剣とは異なり、より有機的で、生々しい不気味さを放っていた。


『……光の導き手……お前の光は……この闇には届かない……』


テレパシーが再び脳内に響く。同時に、鎌のような腕が、信じられない速さで私たちに向かって振り下ろされた。


「散開!」


白石先生の指示が飛ぶ。私たちはそれぞれに身をかわし、鎌の攻撃を避けた。鎌が地面に叩きつけられると、黒い衝撃波が広がり、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。


「物理的な攻撃も強力です! 加えて、精神的な干渉も行っている!」


健太が、計測器の数値を見ながら叫んだ。私の内なる光が、わずかに揺らぐのを感じる。この連結者は、以前の敵とは比べ物にならないほど厄介だ。


私は、新しいグローブから光の奔流を放ち、連結者に向かって打ち込んだ。光は連結者の半透明な体に命中し、一時的にその体を霧散させたが、すぐに再び形を取り戻してしまう。効果は薄い。


「対抗結晶を試します!」


健太が、そう叫ぶと、手に持った対抗結晶を連結者に向かって投げつけた。結晶は、連結者の体に触れると、強い光を放ち、その周囲の黒い靄を一時的に霧散させた。連結者の動きが、わずかに鈍る。


「効く! 健太!」


美咲は、その隙を逃さず、加速の草の効果で素早く連結者の背後へと回り込み、麻痺胞子を散布した。胞子は、連結者の体に触れると、странныйな光を放ちながら吸い込まれていく。連結者の動きが、さらに鈍ったように見えた。


しかし、連結者は、すぐにその動きを取り戻し、私たちに再び鎌を振り上げてきた。その攻撃は、以前よりも速く、そして正確だ。


『……無駄な抵抗……お前たちの絶望こそが……偉大なる者バリキーの力となる……』


テレパシーが、私の精神を直接揺さぶる。過去の失敗、未来への不安、そしてこの戦いの終わりが見えない絶望感――それらが、まるで現実のように私の脳裏に蘇る。光の力が、わずかに弱まっていく。


「花梨さん! 精神攻撃に屈しないで!」


白石先生の声が、遠くで聞こえる。私は、強く目を閉じ、内なる温かい光を意識した。仲間たちの顔、デーモンの最後の言葉、そして、ミニダンジョンの核の純粋な輝き。それらが、私の精神を支え、絶望の闇を押し返していく。


「私は……諦めない!」


私は、再び立ち上がり、グローブから、以前よりも強烈な光の奔流を放った。光は、連結者の半透明な体を貫き、その周囲の黒い靄を完全に焼き払う。連結者は、低いうなり声を上げ、わずかに後退した。


「今です! 花梨さん、ポータルの核心部を狙ってください! この連結者は、核からエネルギーを供給されているはずです!」


白石先生の指示に従い、私は光の奔流で連結者を牽制しながら、ポータルの奥へと進んだ。美咲と健太も、私を援護しながら、後を追う。


ポータルの深部には、以前のミニダンジョンで見たような、赤いクリスタルが鎮座していた。しかし、そのクリスタルは、黒い靄に覆われ、不気味な脈動を繰り返している。そして、その周囲には、これまで見たことのない、黒い結晶が多数生えていた。健太が最初に拾い上げた、あの黒い結晶と同じものだろうか。


「あれが……このポータルの核……! そして、あの黒い結晶が、偉大なる者バリキーの力を増幅させている!」


健太が叫んだ。


私は、核に手を触れようとした。しかし、その瞬間、半透明の連結者が、信じられない速さで私の前に立ちはだかり、鎌を振り下ろしてきた。


「くっ……!」


私は、グローブで鎌を受け止めたが、その衝撃は腕全体に響き渡る。連結者の体から放たれる黒いエネルギーが、グローブを通して私の内なる光を蝕もうとする。


『……光の導き手……お前は、偉大なる者バリキーの絶対なる意志の前では……無力……』


テレパシーが、再び私の精神を揺さぶる。絶望の感覚が、より強く私の意識を支配しようとする。


その時、白石先生が、私に新たなデバイスを投げ渡した。

「花梨さん! これを使ってください! これは、あなたの光の力を増幅させ、精神的な干渉を打ち破るためのデバイスです!」


白石先生が手渡してくれたのは、私のグローブと接続できるような形状の、小さな白いクリスタルだった。私はそれをグローブに装着し、内なる光をクリスタルに集中させた。


すると、グローブから放たれる光が、前よりも生き生きに輝き、私の精神を蝕んでいたテレパシーを完全に打ち消した。そして、その光は、連結者の半透明な体に触れると、それを焼き払い始めた。


連結者は、悲鳴のような卑しい声を上げ、体がゆっくりと解けていく。黒い靄が晴れていくと、その場には、何も残らなかった。


私たちは、一時的な勝利に安堵したが、戦いはまだ終わっていない。ポータルの核は、まだ黒い靄に覆われている。


私は、白いクリスタルを装着したまま、核へと向かった。核から放たれる黒いエネルギーの奔流に抵抗しながら、私はクリスタルを核に押し当てた。


すると、グローブから放たれる光が、クリスタルを通して増幅され、核を覆う黒い靄を焼き払い始めた。黒い結晶も、光に触れると、光の粒子となって消滅していく。


核の黒い靄が浄化されるにつれて、ポータル全体に、穏やかな光が満ちていく。そして、私の内なる光と、核の純粋なエネルギーが共鳴し、ポータルは完全に浄化された。

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