第36話-世界を巡る光-

パリのポータルを浄化した後、街にはかつての穏やかな日常が少しずつ戻り始めていた。黒い靄は完全に消え去り、セーヌ川には陽光が再び降り注ぎ、人々の表情にも以前のような明るさが戻ってきたように感じられた。


私たちも束の間の休息をパリで過ごした後、次のポータルの情報が入った場所へと向かう準備を始めた。次の目的地は、中国の古都・西安だった。そこに出現したポータルは、偉大なる者バリキーとの繋がりが以前よりも強く感じられ、周囲の雰囲気も、より重く暗いという報告が届いていた。


移動の合間、私はパリの空を見上げた。青く澄んだ空には、白い雲がゆっくりと流れている。あの陰鬱な黒い靄が、つい数日前までこの空を覆っていたとは信じられないような光景だった。私の内なる光が、少しでも多くの場所を、かつての穏やかさに戻すことができるのなら――そう強く思った。


西安へ向かう特別機の中で、白石先生は西安のポータルの特異性について、詳細なデータを提示してくれた。


「西安のポータルは、エネルギーの純度が極めて不安定です。偉大なるバリキーの影響が強く、以前のような不定形な黒い塊だけでなく、より知性を持つような存在が出現する可能性も指摘されています」


知性を持つ存在。その言葉に、私は以前ミニダンジョンで遭遇した、言葉を発する騎士の影を思い出した。もし偉大なる者バリキーが、知性を持つ繋がりし者たちを多数生み出しているとしたら、戦いはより一層困難になるだろう。


西安に到着すると、古都は不気味な静けさに包まれていた。偉大なるポータルの影響なのか、観光客の姿も以前より少なく、街全体に重くよどんだ空気が漂っているように感じられた。ポータルの場所は、古い城壁の一角だった。偉大なるポータルからは、黒と赤が混ざり合ったような不吉な色の靄が、ゆっくりと街へと広がっているのが見えた。


研究所の現地チームと合流し、私たちは慎重にポータルへと近づいた。周囲の石造りの壁は黒く変色し、不気味な黒い結晶のようなものが所々に生えている。空気は冷たく、肌にまとわりつくような、嫌な感触があった。


偉大なる者バリキーとの繋がりが、以前よりもはっきりしています。注意してください」


白石先生は戦闘用のデバイスをしっかりと構え、私たちに警戒を促した。


ポータルの中へと足を踏み入れると、そこには歪んだ古代都市のような空間が広がっていた。かつては荘厳だったであろう建物は崩れ落ち、黒い靄と赤い光が不気味な雰囲気を作り出している。足元には、崩壊した石の破片とともに、黒い結晶のようなものが数多く転がっていた。


「この黒い結晶……以前のポータルでは見られませんでした」


健太は慎重にその結晶を拾い上げ、調査用のデバイスで分析を始めた。


「負のエネルギー密度が非常に高いです。偉大なる者バリキーの力を凝縮させたものかもしれません」


その時、崩れた建物の影から、以前のような不定形な黒い塊とは異なる、人間のようなシルエットがゆっくりと姿を現した。その体は半透明で、黒い靄のようなもので構成されており、赤い光を宿した目が、私たちを冷たく見つめている。


「あれが……知性を持つ繋がりし者……!」


美咲は、警戒の色を露わにした。

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