第38話-白石の決意-

白石雪乃の視点

西安のポータル浄化は、予想以上に困難を極めた。特に、知性を持つ連結者の出現は、これまでの予測を大きく上回るものだった。彼らは、単なる力の行使だけでなく、精神的な干渉によって、対象を絶望させようとする。


しかし、佐藤花梨さんは、その精神的な攻撃にも屈することなく、自身の光の力を覚醒させ、連結者を打ち破った。彼女の成長は、私の想像を遥かに超えている。そして、私が開発した精神干渉対抗デバイスが、彼女の力をさらに引き出すことができたのは、大きな収穫だった。


このデバイスは、私の長年の研究の集大成とも言えるものだ。ダンジョンから得られる特殊な結晶と、人間の精神波長を同期させることで、負の精神エネルギーを打ち消し、同時にポジティブな精神エネルギーを増幅させる効果を持つ。まさか、これほど早く実戦で役立つ日が来るとは思わなかった。


ポータル浄化後、私たちは、今回の戦いで得られたデータと、西安のポータルから採取された黒い結晶を詳細に分析した。黒い結晶は、偉大なる者バリキーの負のエネルギーを凝縮させたものであり、ポータルの核を侵蝕し、連結者の力を増幅させる役割を担っていたことが判明した。


「この黒い結晶の存在は、偉大なる者バリキーの侵蝕が、より組織的で、計画的であることを示唆しています」


私は、国際的な研究者たちとのオンライン会議で、今回の分析結果を報告した。世界各地の研究者たちも、同様の黒い結晶の存在を確認しており、その危険性を強く認識していた。


会議では、偉大なる者バリキーの侵蝕が、単なるポータルからのエネルギー漏出ではなく、世界中のダンジョンシステム全体を徐々に汚染しようとする、大規模な計画であるという共通認識が形成された。そして、その計画を阻止するためには、佐藤花梨さんの「光の導き手」としての力が不可欠であることも、改めて確認された。


私たちは、次のポータル浄化の目的地として、南米アマゾンの奥地に位置する、特に大規模なポータルを選んだ。そこは、これまで人類がほとんど足を踏み入れたことのない、手付かずの自然が残る場所だ。しかし、そのポータルからは、他の場所よりもはるかに強力な負のエネルギーが放出されており、周囲の生態系にも深刻な影響を与え始めているという報告を受けていた。


アマゾンのポータルは、これまでのポータルとは比べ物にならないほど、大規模で、そして危険な場所になるだろう。しかし、私たちは、人類の未来をかけたこの戦いを、決して諦めるわけにはいかない。


佐藤花梨さんの光の力、そして私たち科学の力、そして仲間たちの勇気。その全てを結集し、偉大なる者バリキーの闇に立ち向かう。


「花梨さん、次の戦いは、これまで以上に厳しいものになるでしょう。しかし、私たちは、あなたと共にあります」


私は、佐藤花梨さんの顔を見つめ、力強く言った。彼女の瞳には、不安の色と同時に、確かな決意の光が宿っていた。


私たちは、アマゾンへと向かう準備を始めた。世界を救うための、私たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。

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