第4話-告白、それぞれ-
健太の鋭い指摘に、私は言葉を失った。どう言い訳をすればいいのか、頭の中が真っ白になる。ごまかそうとしても、理系の彼には通用しないだろう。
観念した私は、覚悟を決めて口を開いた。
「実は……その水も、そう。私が最近使ってる色々なものが、ちょっと普通じゃないんです」
美咲と健太は、私の言葉に息を飲んだ。学食の隅の、人通りの少ない席を選んで話しているのが、せめてもの救いだった。
「普通じゃない?どういうことだ?」
健太が身を乗り出してくる。美咲も、目を丸くして私を見つめている。
私は、深呼吸を一つして、最近起こった、信じられない出来事を、二人にゆっくりと語り始めた。骨董品店で奇妙な種を手に入れたこと。それを植えたら、小さなダンジョンが芽生えたこと。そして、そのダンジョンから手に入る、不思議な力を持った素材たちのこと。
話している間、二人は息を潜めて私の言葉に耳を傾けていた。最初は信じられないといった表情だったけれど、私が取り出した小さな浄化石や、鞄に忍ばせていた萎れかけの癒し草を見せると、徐々にその表情は驚愕へと変わっていった。
「マジかよ……ダンジョンが、自分の部屋に……?」
健太は目を丸くして呟いた。美咲はというと、私の話が一段落すると、すぐに身を乗り出して浄化石を手に取った。
「これが、あの美味しい水の秘密?ねえ、ちょっと触らせて!」
美咲は興味津々といった様子で、石をまじまじと観察している。健太はというと、腕を組んで難しい顔をしていた。
「理論的にはありえないはずだが……でも、現にこうして目の前にある、と。ダンジョンの発生原理は未だに解明されていないことが多いからな……君の持っている『種』が、特異な何かを生み出した、と考えるのが妥当か」
さすが理系、すぐに考察を始める。
「それで、そのダンジョンからは、こういう不思議なアイテムが手に入る、と?」
美咲が癒し草を指さしながら尋ねた。
「うん。これは『癒し草』って言って、傷とか火傷に塗るとすぐに治るの。この間のバイトでちょっと火傷した時も、これですぐに治ったんだ」
私がそう言うと、美咲は目を輝かせた。
「ええー!すごい!ちょっと見せて!」
彼女は興味津々で癒し草を手に取り、匂いを嗅いだり、葉をそっと撫でたりしている。
「信じられない……本当にローファンタジーの世界みたいだね!」
美咲は興奮した様子で言った。健太も、私の話にすっかり引き込まれているようだった。
「そのミニダンジョンというのは、常にそこにあるのか?大きさは?モンスターは?他には何かあるか?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。私は、二人が私の突飛な話を信じてくれたことに、安堵感を覚えた。一人で抱え込んでいた秘密を共有できたことで、心が少し軽くなった気がする。
「うん、私の部屋の鉢の中に、ずっとあるよ。大きさは、入り口は手のひらくらいだけど、中は六畳くらいの広さかな。今のところ、モンスターは見たことない。ただ、時々、小さなスライムみたいなのが、素材と一緒に現れることがあるけど、特に害はないみたい。今まで出た素材はたしか、小さい浄化石、癒し草あとは頭が良くなりそうな酸っぱい集中木の実かな」
私がそう答えると、健太は顎に手を当てて考え込んだ。
「スライムか……やはり、通常のダンジョンと同じような生態系が、ミニチュアながらも存在している、と考えるべきか。興味深い」
美咲はというと、もうすっかりダンジョン素材の虜になっている様子だった。
「ねえ、花梨!その『集中木の実』ってやつ、私も試してみたい!最近、レポートが全然捗らなくて困ってるんだよね!」
私は苦笑しながら、鞄から集中木の実を一つ取り出し、美咲に手渡した。
「どうぞ。でも、効果は人それぞれかもしれないから」
美咲は
嬉しそうにそれを受け取ると、すぐに一口食べた。
「わ!ほんとにちょっと酸っぱくて、でも美味しい!なんか、頭がシャキッとしてきた気がする!」
彼女の言葉に、私も少し嬉しくなった。
こうして、私の秘密は、最も親しい二人の友人に共有されることになった。彼らがこの秘密をどう受け止め、私の日常がこれからどう変わっていくのか。まだ想像もつかないけれど、少なくとも、一人で不安を抱え込むよりはずっと心強い気がした。
だけど、同時に、新たな懸念も頭をもたげていた。この不思議な力を、私たちはどう扱っていくべきなのだろうか。そして、この「ダンジョンの種」は、一体何なのだろうか――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます