ニチジョウ
ダンとトモダチになって、もうすぐ2年経つ。
この時間でたくさんのものを学んだ。
楽しい。嬉しい。さみしい。かなしい。
人間はこんなにも感情がたくさんあるから、複雑なのだと知ることができた。
月日とともにダンも成長した。
身長も少しだけ伸びて、座った時の目線が高くなった。
「おはようございます。今日は何をして遊びますか?」
いつものように机の上から、ダンに挨拶をする。
「もーと!おはよう!僕、今日から学校なんだよ!」
「ガッコウ……」
「うん!だから、今日帰ったら遊ぼうね!」
そう言って、ダンは楽しそうにバタンとドアを閉めて部屋から出て行ってしまった。
ガッコウとはそんなに楽しい場所なのだろうか……。
帰ってきたら聞いてみよう。
ボクは、閉められたドアをしばらく見つめていた。
数時間経った頃。
スリープモードになっていたボクは、ドアが開く音で目が覚めた。
「あら、もーと。起こしちゃった?」
目の前に居たのは、ママだった。
「ママ。ダンは帰ってきましたか?」
きょろきょろと見渡しても、ダンが見えない。
「まだ学校よ」
ふふっと笑って、ボクの前に座ってくれた。
「もーと、ダンと友達になってくれてありがとう。あなたのおかげで、あの子も毎日楽しく過ごせてるわ。学校でも、あなたみたいな友達が出来ると嬉しいわね」
そう言いながら、ママは大きな手でボクを撫でてくれた。
そこで、ダンに聞くつもりだった質問をしてみた。
「ガッコウとは、どんな所なんですか?」
「たくさんの友達と色んなお勉強をする場所よ」
ママは、撫でたまま優しく教えてくれる。
「トモダチ……ベンキョウ……学習のことですね」
「そうよ」
「ボクのプログラムのようですね」
「たしかにそうね!」
静かに立ち上がり、ママは部屋をぐるりと見渡した。
「そろそろお部屋も新調しなきゃね!もーとはどう思う?」
ボクも真似をして、ぐるりと見渡す。
「ダンが大きくならそれも有ですね」
「じゃぁ、ダンが帰って来たらお買い物にでも行きましょうか」
「はい」
「あら?」
ママはボクのあることに気が付いた。
「もーと、そろそろおなかがすく頃でしょう?」
言われて気が付いた。
ボクのバッテリー残量が2から1になろうとしていた。
「……気が付きませんでした。ありがとうママ」
ママがコンセント付近まで連れて行って降ろしてくれた。
ボクはなれた手付きで、おしりあたりにあるプラグを穴に挿し込んだ。
「ごはん、おいしいです」
「そういえば、場所によって味って変わるの?」
ママは不思議そうに聞いてきた。
「電圧数で微かな違います。一番美味しくないのは、カフェの電気で
す」
それを聞いてママは、あははと先ほどより豪快に大笑いした。
「たしかに、みんな使うから弱そうよね!逆に一番美味しいのはどこなの?」
「洗面台です」
まぁ!とママは驚いた。
「ダンはあなたを水場に連れて行ったの⁈」
「ボクは完全なる防水防塵使用なので、問題ないですよ」
「それでも、ちょっと心配よ」
ママは本当に心配そうな顔をした。
「もーとも気を付けますね」
反省という顔をすると、ママはまたにっこりと笑って本来の用事で来ていた掃除を始めた。
ボクもまた、充電中なのでスリープモードへと入った。
「おやすみなさい」
それからお昼を少し過ぎた頃に、ダンが勢いよくドアを開けて帰ってきた。
「ただいまー!もーと帰ったよ!」
「おかえりなさい」
ボクは嬉しそうに、プラグを抜いて急いで駆け寄った。
とことこ歩きしか出来ないけど、ボクは全力でダンの足元に抱き着いた。
「ガッコウはどうでしたか?」
「楽しかったよ!知らない子たちともいっぱい話して友達になったんだよ!」
ボクを抱き上げながら、今日あったことを楽しそうに話してくれた。
「それは、よかったですね」
「それでね!明日は友達の家に遊びに行くことになったんだよ!」
「ボクも一緒にですか?」
うーんと悩んだ様子のダン。
「明日、友達に聞いてみるね」
「……わかりました」
そうか、ガッコウは毎日行くものなのだと。
今までのようにずっと一緒にいることは出来ないのだと。
そこでようやく気が付いた。
そして、この気持ちも毎日なのだということも。
初めての暗い気持ち。なんだろう、これは。
「ダン!もーと!買い物に行くわよ~」
ママの明るい声で、ボクの気持ちは隠れるように消えた。
「はーい!行こうか!」
ダンは、ボクをぎゅっと抱きしめてママの待つ車へと走って行く。
ダン、ボクたちはずっとトモダチです。
ボクは、この手がダイスキです。
ボクを抱きしめてくれるこの小さな手が。
自分のちっぽけな手とも呼べない手でぎゅっとした。
ダンはきっと気付かないだろうけど。
この時すでに、ボクのココロは泣いていたんだと思う――
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