マッチングアプリが“異世界の扉”になる瞬間に、心を奪われた

　この物語、ただの異世界転移ものじゃないんです。失恋で心にぽっかり穴があいた結衣が、“マッチングアプリ”という現代的な扉から剣と魔法の世界へ導かれる――この導入からもう、読者の心をぐっと掴みます。
　
　異世界で出会う仲間たちとの交流は優しく、時にコミカルで、結衣の心の傷や揺らぎがとても繊細に描かれています。ただ「冒険して魔王を倒す」だけではなく、誰かに救われる痛みや、信じることで自分が救われていく過程が丁寧に積み重ねられているんですよね。

　傷つくことで優しさを知り、疑うことで信じる力を見つける。“神”と“魔王”の謎、裏切りや赦し、友情と恋心――結衣の小さな決意や揺れる心情が、鮮やかに物語の色を変えていくのがたまらなく愛おしいんです。ひとりぼっちの夜を抜け出して、冒険の中で「信じる勇気」を取り戻す。そんな結衣の成長に、読んでいるこちらもいつの間にかそっと寄り添ってしまう。

　もし今、世界に少し疲れてしまった人がいたなら、この物語はきっと、心に柔らかな光を灯してくれますので、ぜひとも読まれることをおすすめします。