『源氏物語』のその先へ
- ★★★ Excellent!!!
『源氏物語』は言わずと知れた日本最古の長編小説であり、あの三島由紀夫をして「『源氏物語』以上の文学は書けない」と言わしめた作品だ。
『源氏物語』は余白・余韻・余情の文学とも云われる。
光源氏は最愛の妻"紫の上"が亡くなったあと、長い間嘆き苦しむが、彼の死については「雲隠」として巻名だけがあり、本文のない幻の帖となっている。
彼はどのような余生を送ったのか。
読者の想像力に委ねられ、"浮舟"のその後と共に哀しくも美しい余韻が残る。
その先を二次創作として後の世に書かれたものの一つが『雲隠六帖』だ。『源氏物語』愛好者の中には、原作の雰囲気がこわれるのを恐れ、敢えて読まない人もいる。私もその一人であった。
工藤行人氏は古典文学の世界に精通しておられ、実に耽美な言葉を紡ぐ人である。散りばめられた雅語が美しい。私は工藤氏の現代語訳によって絵巻を繰るように「雲隠」の世界に入り込み、豊かな読書体験を味わった。