第15話
騎士団の寮の使い慣れた一室でレイスティーは目を覚ました。
ここはレイスティーが以前使用していた部屋で、退寮した後も代わりの誰かに使われることなく、再びレイスティーが使用することとなった。
そうは言っても短期間だけなので私物を増やすつもりはなく、必要最低限で過ごすつもりだ。
しかし使い慣れた部屋というのはやはり落ち着く。
ユハンの家の自分の部屋よりもずっと落ち着いて眠れたというのがまた何とも言えない感情を呼び起こす。
着替えて食堂に降り、適当に空いている席で食事をすることにした。
一人でゆったりと食事をしているとどこからかクスクスと笑う声が聞えて来た。
「ねぇ、あの子じゃない?」
「あぁ、アンスター隊長に振られて辞めちゃった子?」
「アンスター隊長には女神がいるのに?」
「そうそう。だけど、任務で呼び戻したらしいよ」
視界に入る席でレイスティーを嘲笑しているのは医務局の制服を着た女子三人組である。
彼女達の言葉が朝食をマズくしたことは言うまでもない。
「えー、じゃあ好きな男と恋敵が仲睦まじく花祭りに参加するのを見なきゃならないってこと?」
「うわ……きっつ……」
「それはマジで同情するわ……」
一度はレイスティーを嘲笑い、会話を楽しんでいた女子達の視線が一気に優しくなる。
彼女達が言う花祭りとは女神アイスティアと女神が愛した英雄フォトガルオスにちなんで行われるお祭りだ。
花祭りは英雄フォトガルオスの名を冠する騎士団が主だって行われ、ここ数年の英雄役はコーネリオが務めている。
顔が良い男がフォトガルオス役をすると祭りが盛り上がる。
圧倒的に盛り上がる。
レイスティーは去年はこの時期にサンスタットにはいなかったが、アイスティア役はフルーラが務めたと聞くし、彼女達の会話から今年も女神役はフルーラだろう。
「元気だして。アンスター隊長は無理でも、あなた美人だから次行きなよ」
「これ食べて良いよ」
「これもおススメ。ストレスには甘い物」
そう言って女子達がレイスティーの前にチョコレートとキャンディーを積んでくれた。
「……どうも」
レイスティーはフォークで刺したミニトマトを頬張り、小さくお礼を言うと女子達は片手を上げて颯爽と食堂から立ち去った。
「花祭りねぇ……」
約五日後に行われる花祭りの準備は既に始まっているとミラから聞いた。
コーネリオはその準備にも加わっているため、多忙も極まっているらしい。
レイスティーは朝食と三人組が置いていたお菓子を摘まんでいると、目の前に見知った顔が座った。
「おはよう、レイスティー」
「おはよう、ミラ。どうしたの? こんな早く」
実家が近いミラは寮生活ではなく通いだ。
朝のこの時間に食堂で姿を見ることはほとんどなかった。
「花祭りの経路確認に行くの。一緒に行かない?」
「邪魔にならない?」
「なるわけないでしょ」
そう言ってミラは明るく笑う。
コーネリオから許可は出ているというので、レイスティーは遠慮なくミラと外出することにする。
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