第14話

「あら、誰かと思ったらレイスティーじゃない。久しぶりね」

「そうね」


 彼女はフルーラ・シエトルト。


 眩しく輝く金色の髪に長い睫毛で縁取られたピンク色の瞳、色白で愛らしい人形のような顔立ちの可憐な美女だ。


 侯爵家の出身で優れた二級の治癒術の使い手であり、騎士団の女神と呼ばれている。


 シエトルト侯爵家といえば幅広く事業を手掛け、中でも医療に関しては国に大きく貢献している。


 シエトルト侯爵家の経営している国立病院は国の要人達も多く通っている大病院で、騎士団もお世話になっている。


「フルーラ嬢、人前ですよ」

「あら、ごめんなさいっ。私ったら、つい!」 


 コーネリオは自分の腕にしがみつくフルーラをやんわりと引き剥がす。


 一応はコーネリオの言うことを訊くフルーラだが、その態度はあざとさが隠せていないし、そもそも隠す気がないらしい。


 レイスティーは以前からフルーラが苦手である。

 それにしても二人で並ぶと迫力のある美男美女だ。


 結婚間近と噂の二人のイチャイチャを見続けることができるほどレイスティーはコーネリオへの気持ちを切れていない。


 じくじくと膿んだ傷のような痛みがレイスティーを苛む。


「それでは、一度失礼します」


 疲れたので少し休みたいし、ここの場を離れられるなら言葉は何でも良かった。


「あら? もう行っちゃうの?」


 レイスティーがそそくさと二人に背を向けると呑気な声が掛かる。

 振り向くとにんまりと意地の悪い笑みを浮かべるフルーラの姿がある。


「えぇ。ずっと移動、移動で疲れたから」


 引き留めるな。早くここから離れたい。心の傷が大きくなる前に。


「そうなの? 復帰するって聞いたから楽しみにしていたのよ?」


 人差し指を口元に当てて小首を傾げる可愛らしい仕草をしながらフルーラは言う。


「復帰はしないわ。もう向こうでの生活があるから。私のそろそろ結婚相手を探したいし」


 もうコーネリオには何の未練もないことをアピールしておかなくては。

 レイスティーの言葉にフルーラはキョトンとした表情を見せた後、満面の笑みを作る。


「そうよね。私達と違って相手探しから始めないといけないんだもの。騎士団になんていられないわよね」


 同情的な表情でフルーラは言う。


 しかし、その実はレイスティーを見下し、嘲笑していることはレイスティーも理解している。


 レイスティーは表情筋を総動員させて笑みを張り付け、今度こそ背を向けて歩き出す。


 背後で楽しそうなフルーラの声とコーネリオの落ち着きのある低い声が交互に聞こえてきて、早く二人の声が届かない所まで行きたいと思った。


 建物内の廊下を進んで、玄関を目指していると曲がり角から見知った顔が現れた。


「おや、レイスティーかい?」


 曲がり角から現れたのはゴーグルを掛けた細身の男性である。


「お久しぶりです、メラニア医務局長」


 彼の名はバンス・メラニア。


 騎士団の医務局長を務めている人物で、灰色の癖のある髪とゴーグルが特徴だ。

 ゴーグルを掛けているので分かりにくいが、黒い瞳の整った顔立ちをしているということで女性隊員に人気である。


 医務局長の座に就いているが歳はコーネリオと同じ二十九歳で未婚女性からは優良物件として狙われていることをレイスティーは知っている。


「久しぶりだね。復帰するんだって?」

「いえ、しませんが」

「えぇ⁉ しないのかい⁉」


 むしろ、何で復帰すると思ってるの?


 今回は協力するだけだとバンスに伝えると意外そうな顔をする。


「アンスター隊長が直々に迎えに行ったのに?」

「あぁ……なるほど」


 何となく引っ掛かっていたことが解消された気がした。

 アリエルもコーネリオもみんなが当たり前のようにレイスティーが復帰すると思っているのが疑問だった。


 コーネリオほどの男が自ら足を運び、『君が必要だ』と説かれればコーネリオに恋している自分なら簡単に復帰すると考えているのだろう。


 こう言ってはなんだが、彼がレイスティーが辞職した原因物質のようなものだ。


 いわゆる、元凶である。


 それに私はあの人に『仕事に向いていない』と正面から言われたのを忘れてない。


 その言葉に深く傷付いたことも、その傷が全く浅くないことも。


 彼もやむなくレイスティーを説得する係りに選ばれたのだろうが、自分を深く傷つけた男に頼まれたからといって簡単に復職するほど馬鹿ではない。


 ここで言われるがままに復職したら私はこの先ずっと叶わぬ恋に振り回されるままだ。


 それは嫌。


「それは残念だ。でも、また君に会えて嬉しいよ」


 バンスは心底残念そうに言ったあとで、大袈裟なほど眩しい笑みを浮かべる。

 そんな風に嬉しそうにされると、こちらも嬉しくなってしまう。


「私もまたお会いできて嬉しいです」


 レイスティーはやや気恥ずかしさを感じながらも素直に感情を口にする。


「あぁ、そうだ。しばらくはここにいるんだろう? 君に見てもらいたいものがあ

ってね。時間がある時に来てもらえないかな?」


「分かりました。それでは失礼します」


 見てもらいたいものって何だろう?


 気になるが今は身体も頭も休ませたかった。

 

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