第2話 奴隷と魔族の姫

奴隷と魔族の姫



奴隷を買った。私は服を作ったり…料理を作ったり…庭を手入れしたり…そういうことが好きなのだが、なかなか作品を一緒に楽しんでくれる者がいない…。だから奴隷と楽しもうと思う。


奴隷は驚くだろうな。おそらくこれほど奴隷に優しい環境はない。


「姫様〜?奴隷届きましたよ〜」


「ああ、今行く。」


廊下から広間に出る。玄関の方に女が立っていた。年は幼そうだが上背が少しある。私より頭一つ分低いくらいの身長だ。


「君には今日から私に仕えてもらう。まず私の部屋を案内しよう。」


満足だ。顔は大人びながらもあどけない幼さがあり、とても可愛らしい。そして身長もそこそこあり、スタイルは抜群だ。金貨をつぎ込んで良かった。名は…サングエだったか…?


その顔が美味で緩み、その体が服によってより引き立てられるのを想像する。


おっと、部屋を通り過ぎるところだった。


「ここが私の部屋だ。ちょっと待っていてくれ。」


私はキッチンへ行き、用意していた(処理に困っていたとも言える)焼き菓子を持っていった。すると…


「な…なにをしている!?」


サングエは服を脱いでいた。そして困惑する私を不思議そうに眺めて、質問を投げかけてくる。


「血を…吸わないのですか…?」


「血…?確かに好きだが…私はそういうつもりでお前を買ったのでは…」


落ち着いて彼女の体を見ると…首筋を中心に噛み跡がたくさんある。


「…っ…とりあえず服を着てくれ…」






新しいご主人様は少し変な人です。他のご主人様たちは真っ先に私の血を吸ってくださるのに…。このご主人様は私の血には興味がないのでしょうか…。


私は不思議に思いながら服を着ました。そして椅子に座らされました。ご主人様は


「人間用ではないが…口に合うだろうか…?」


と言いながら、私の前にいい香りのするお菓子を並べました。私は混乱しました。


「…これは…どうすれば…?」


「ああ、食べてみてくれ。」


食べてみてくれ、とは。このようなものを食べるのは初めてです。こんな…可愛らしい…温かみのある…お菓子とは…。恐る恐る手に取り、口に運ぶ。


「さく…」


軽快な食感、さくさくと咀嚼する感覚が楽しい…そして身に染みるような甘さ…鼻をくすぐる香ばしい香り…。

私の顔は自然と緩んでしまっていたようで、ご主人様はそれを優しく見守っている。嘆声と共に言葉が漏れる。


「…とても…美味です…」


ご主人様はにっこり笑って、私の手を取った。そのまま私を立ち上がらせて言った。


「次は洋服だ。」


洋服。私は奴隷の中でも少々高級らしく、奴隷服もそこそこ清潔なものを渡されていました。わざわざ着替えさせるほどのものではないのですが…


「ふむ…君の体型と雰囲気なら…」


ご主人様は衣装部屋で衣類の森に潜り、私に合う洋服を選んでくださっています。


部屋にはおびただしい数の洋服がありました。色とりどりにそれぞれの美しさをたたえている…私はその景色に見惚れていました。


ほどなくしてご主人様は戻ってきました、可愛らしいドレスを携えて。


メイド服のデザインを元に、リボンやフリル、刺繍などの装飾がバランス良く施されているドレスでした。派手ではなく、ふわりと可愛さを感じさせます。


「…これを着るのですか?」


「着てくれ。きっと似合う。」


もしかしたらシチュエーションを大事にするご主人様なのかもしれません…!


それなら…


私は服を着替えて、ご主人様の寝室に戻りました。そしてベッドに腰掛けてご主人様を待ちます。


「なぜベッドに?眠いか?」


なぜ…とは?血は吸わないのでしょうか…私を買う目的と言ったら吸血くらいしか…ないはずなのに。


いつの間にか声は震えて、無礼にもご主人様に問うてしまった。


「…血は…?」


「血?私は好んで吸うほど血は好きではない。だから─」


「ならば…ならばなぜ…私のことを…?」


ご主人様は少しはっとした様子です。私は不用意な発言の申し訳なさがこみ上げてきて泣きそうです。


「………私は実は…君を奴隷として買ったつもりはないんだ。私はね、同居人というか…私と一緒に生活してくれる者を探していた。」


ご主人様は私の隣に座った。そして私の手を優しく握る。


「だから…対等でありたい。」


ご主人様のもう片方の手が私の首筋を撫でる。噛み跡を治すように、泣く子を慰めるように。


「この傷も…もう忘れていい。…そうだな…ゆくゆくは…家族のようになれたらいいな…」



その後は…あまり覚えていません。そのままご主人様の温かい優しさに包まれて寝てしまった気がする。

数日後、私はご主人様の料理をいっぱい食べて、美しい庭園をご主人様と一緒に散歩しました。そしてその夜です。


「ご主人様…血を吸ってくださいませんか…?」


「…それは…なぜ?」


「そ…その…ご主人様の愛はたくさん受け取っていますが…やっぱり私はっ…吸血されると大切にされてることを実感する、と言いますか…安心する、と言いますか…」


「ふむ…なるほど…」


ご主人様は少し考えてから、ベッドに座りました。


「なるべく優しくやってみるが…我慢はするなよ?」


私は嬉しくなりました。ですが今までのような追い詰められた幸せではありませんでした。胸が暖かくなりました。


いざご主人様に抱きしめられると心臓が早鐘を打ちました。とってもドキドキして…体が熱くなるような感覚に襲われました。


ご主人様が私の首筋を舌で撫でました。ゆっくり、じっくりと、私の心を溶かしてしまおうとするように、甘く撫でました。


そしてついに、ご主人様の歯が私の皮膚を貫きました。鋭い痛みが体を走りましたが、ご主人様がとてもゆっくりと歯を進めてくださったからそこまで痛くありませんでした。


痛みにもだんだん慣れてきて、甘い痺れが体を支配しました。ご主人様の体温と痺れが混じって、とても心地良い気分になりました。


私は気持ちよさに包まれてふわふわしていました。するとご主人様は私に優しくキスをしました。


多分その後私は倒れるように眠ってしまいましたが、あの感覚は当分忘れそうにありません。

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