第3話 決して廻らない、あの日々

 見慣れた道を通って、変わらない風景を眺める。


 灰色の感情をのけ者にして風を切る。


 扉を開いたときには小雨が降っていたものの、いまでは空気に溶けて消えている。


 重く空に蓋をする鉛色の雲は、重厚感をまとって時折白く光っている。


 しとしととした梅雨特有の湿気が、体の熱と溶け合ってねっとりと不快な重さがある。


 きっとそれだけではないのだろう。汗と雨で濡れたシャツが背中にへばり付く。


 吐く息の熱気が溶け消えることなく顔の周りにとどまる。


 ペダルを踏む足が重い。足につけられた鎖が音を立てて鉄球を引く音が聞こえる。


 走り慣れた坂道のゴールが遠く遠く先にあるように感じる。


 いや、ゴールなんて存在しないんだろう。


 人生のゴールは、僕にはあまりにも罪深い。


 いつまでも、トンネルの非常分離帯で燻っているのだから。



 下駄箱には木のしっけたにおいが鼻先をくすぐる。


 古臭いと思う人もいるのだろうがあまり何も思ったことはない。


 ここにそんなことを考える暇はないから。



 退屈な空間が過ぎていく。


 時計の針は早回しで進むことなんかなく、いつもよりもゆっくり動く。


 きっとそうなんだろう。また一つ鐘がなる。


 みんなの前で燦燦と話せるあいつも、


 嫌気がさすほど何もないクラスメイトも、


 あいつらほど目標を以って動けない自分に嫌悪する。


 惰性で動き続ける自分は、きっと醜悪なのだろう。


 止まったままの時計の針は、あの日に置いてきた。


 もう進むことのない、決してらないこの日々。

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