第15話 超特急わんこ号

 ハグハグとガルプの実を食べていたわんこは、急に森の奥に視線を向け口を開く。


「いた」


 やっぱりか。コイツがこんな反応をする時は、だいたい獲物が来るときである。


「お。来たか。やっぱりお前は鼻がいいな」


「臭い。臭い。小鬼ゴブリンだ」


 風向きにもよるだろうが、最大で数百メートル離れている獲物も見つける事が出来るらしい。遮蔽物が多い森の中だと難しいが、それでも探知能力はピカイチだ。


「ヨシ。行くか」


 その一言で食べかけのガルプを飲み込み、足元に寄ってくるわんこ。俺の足の間に顔を突っ込み、そのまま、するすると前に進む。するとどうだろう。俺が犬に乗ったではないか。

 犬の首の部分に乗っているので不安定ではあるが、毛並みはフサフサモフモフで柔らかく。気持ちがいい。


 魔王の記憶が確かなら、某アニメ映画の姫の感じだろうか。この犬はあそこまで大きくないが、乗れているのは秘密がある。

 俺自身を超能力でちょっと浮かせているのだ。わんこからしたら、軽く感じている筈である

 動いている時のバランスもとれるので、なかなか便利だ。今はまだ力が足りないので無理だが、空も飛ぶ時の為の練習にもなる。


「ハイ・ヨー!シルバー!」


「ちゃんと、捕まっていろ」


 俺の掛け声と共に走り出す。風と一体になった様な疾走感…とはならない。木々の間を左右に動きながら進むので、なかなかに揺れるのだ。快適とは言えず、頭の横数センチで木が通り過ぎるのを見るとヒヤヒヤする。

 命がけのアトラクションを体感しながら体感5分くらいだろうか。走るスピードを徐々に落としていき、止まるとその場に俺を下ろした。

 そのまま、歩くのでついて行くと。見えて来たのは、俺と同じくらいの大きさの魔物。小鬼ゴブリンである。


 薄緑色じみた肌色。鷲鼻に尖った耳。漫画や本で出てくるゴブリンのそのままである。腰蓑や棍棒も装備しているので、テンプレ過ぎてなんか笑える。

 そんなゴブリンが3体(人?)、立派な角が生えている牡鹿の死体を囲んでいた。仕留めたばかりだろうか、まだ手を付けてなさそうだ。


「ラッキー。今晩のおかずもゲットだぜ」


 勿論ゴブリンは食べれない。鹿肉を教会に持って帰ると、今日か明日の食卓に並ぶ。やはり肉があると嬉しいものだ。

 ゴブリンは馬鹿ではあるが、手を使う程度の知性と群れる習性がある。あの鹿は何らかの罠に掛けて仕留めたのだろうか。


「3匹か」


「俺が1匹受け持とうか?」


 側に立っていたわんこが俺に尋ねる。


「いや、大丈夫だ」


 木の実一つで鼻血を出していた日から半月も経っている。特別な力を持っているだけで、何もしなかった訳では無いのだ。


「ギャッギャッ!」


 1匹がコチラに気付き声を張り上げると、残りも振り向くゴブリンs。耳に触る声を上げながら俺に向かって来た。


「足元がお留守です、よ!っと」


 先頭を走っていたゴブリンの足に向かって超能力を使う。


「ギャッ!?」


 大声を上げながらコケるゴブリン。見るとあらぬ方向に曲がった両足。


「ソレ!ソレ!」


 残りの2匹にも超能力を使う俺。無様にコケて動けなくなるゴブリン。バランスを崩しながらも手に持っていた棍棒を投げようとしたので、両手も曲げてしまう。


「危ない危ない」


 イモムシの様に地べたを這いずり回るゴブリンを見下ろしほくそ笑む。


「いたぶる趣味は無いんでね」


 ゴブリンに手を向け超能力を使う。首をへし曲げ絶命させる。


「こんなもんか」


 無言で転がる3匹のゴブリンに向かって一言。気合を入れるまで無く。戦闘は終了した。


「ふむ」


 ゴブリンの匂いを嗅いでいるわんこ。何か気になる事があるのだろうか。


「食べるか」


「いらん。臭い」


 にべにもなく答えたわんこに笑ってしまう。

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