第13話 樹上の出会いは突然に
予想外の事が起こると何も出来なくなる。なるほど、今の自分の状況だろうか。どこか冷静な頭で考えながら、今もガサガサと音がする木を見ていた。
その内、ヌッと顔を出したのは、大きな犬の頭。コチラを伺う様にコチラをじーっと見ている。しばらく見つめ合っていたが、足を滑らせたのか、ドスンと落ちて来た。
デカい。大型犬じゃ目じゃないくらい大きい。シベリアンハスキーをそのまま大きくした様な姿をしているその犬は。鈍臭く落ちた木を恨めしそうに見ている。
おっちょこちょいなのだろうか。木を見つめている、知性が何となく感じられない犬を観察する。
やや灰色がった毛並みで艶もある。マズルからチラッっと見える犬歯は鋭く、俺の様な子供など簡単に噛み千切れそうである。
そして、角が生えている。魔物の証拠だ。だとしたら狼魔だろうか。
ふと、魔物の犬がコチラを見た。大きな口を開け、鋭い歯が見える。動けない。野生生物の前で不用意に動くと危険であるのは知っている。
だが、それ以前に命の危険を感じ、動けないでいた。コレが虎を目の前にしたウサギの気持ちなのだろうか。もしくは、蛇に睨まれたカエルか。
「ガルプ…」
「喋った…。犬が喋った!?」
予想外な事に大声が出た。まさか、この世界の犬は喋るのだろうか。
いや、そんな筈は。しかし、知らないだけで居るのかも知れない。グルグルと混乱していると、なぜかだんだんと頭が冷えてくる。
よく見ると、大きな犬は、手に持ったままの青ガルプを見つめている?左右に動かすと目線も追ってくるので、そうなのだろう。
犬に向かって投げてみると。空中でパクっと上手に食べた。
あんなに渋いガルプの実を美味しそうにまるかじりだ。そんなに小さく無い実の筈だが、やはり口も大きい。
しばらく口をアグアグしていた犬は、コチラをじっと見ながらお座りをしてきた。もっと欲しいのだろうか。
犬に注意を向けながら上を見る。まだそれなりの数が実っているが。どうするか。ひとまず先程と同じ様に超能力を使う事にしよう。
木の実に向かって不可視の力を使う。さっきは一つ取るのに苦労したが、嘘の様に簡単に取れた。超能力の出力が上がったのだろうか。
疑問に思いながら犬にガルプを投げる。ヒョイっと飛んで行ったガルプは、そのまま空中で消えた。目に見えない速さで食らいついて来たのだ。
また目の前でお座りをしだす大型犬。仕方がないので、5個6個とガルプの実を取り投げる。
「沢山食べるなぁ、お前」
多分10個めくらいだろうか。お座りをやめ、コチラをじっと見だす。
「腹いっぱいだ。ありがとう」
そう言い残し森に帰って行く喋る犬。しっぽがユラユラと揺れていてご機嫌なのだろう。見えなくなるまで見送り、座り込む。
超能力を使い過ぎたのもあるだろうが、プレッシャーが無くなり安心したのだろう。足に力が入らない。
しかし、そろそろ帰らないといけない。予想外の事が起き、時間がだいぶ経ってしまったのだ。
バレる前に帰らないと怒られてしまう。
「よっこいしょ」
足に力を込め、ジジくさいセリフを吐きながら、尻に付いた土ぼこりを払いながら歩く。ちょっと、いや、だいぶ振らつきながら。
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