第9話 デメリットは最後に聞いた方がいい

「ところで。解呪しなかった場合どうなるのです?」


 一番気になっていた事を聞いてしまおう。


「そうですね。良くて発狂。だいたい廃人ですかね」


 死にはしないか。いや、死んで無いだけで死んでいるのか。半死半生は勘弁して欲しいが。


「どうして」


「四六時中魔王の記憶が流れて来ているのですよ。おかしくならない筈が無いでしょう」


 今も貴方の頭の中に流れ込んでいる筈ですよ、と笑いながら言う神父。いや、笑い事じゃないでしょ。


「ですが。すぐに…とかはなりません。短くとも5年。長くても10年くらいですか」


 顎に手を当てながら上を見る神父。ゆっくりと進む毒の様な。蝕む姿はさながら呪殺をする様な。

 なるほど、確かにコレは呪いであるな。


「症例が少ないので絶対ではありませんが」


 先ほど言っていた3〜4件は成功例なのだろう。


「気付いていると思いますが。呪われる前の貴方。呪われた後の貴方では、もはや別人です」


 そうだろ。言葉遣いも違うだろうし。考え方も違う。歳の割に知性が高い、かもしれない。

 過去の俺は消えて、今は半魔王だ。なるほど、笑える。


「思考も魔王に近づくでしょう。彼らの半生を覗き見るのですから」


「しかし、魔王の力は手に入らない…」


 神父は先ほど、そう言っていた。


「そうです。なので魔王にはなり得ない」


 力に溺れ。周りに反発し。取り囲まれて殺される。ソレが魔王達の歴史だ。



 しかし、コレは。

 この内側に湧き出す力はなんだろうか。



「どうしましたか?」


「いえ。神父。なんでもありません」


 誤魔化す為に頭を振りながら答える。


「…そうですか。他に何か聞きたい事がありますか?」


 聞きたい事はいっぱいある。

 

「では。他の人達は巡礼に挑戦しないのですか?」


 デメリットは小さく(小さく無いが)。得るものは大きい。ならば何故、他の人達は巡礼に挑戦しないのか。


「いい質問ですね。挑戦が出来ない理由は幾つかありますが。大きいところでは2つ」


 指を2本立てる神父。


「まず、これら呪物が存在している場所は魔王の跡地、もしくは戦場の跡地なのですが…。近づけ無いのです」


 指を1本畳みながら話す。人差し指を立てながら話す様は絵になっている。鬼畜眼鏡教師みたい。…なんだこの記憶は。


「魔王の力が残存しており。周りの魔力のバランスが崩れて、ダンジョンと化しているのがほとんどです」


「ダンジョン…」


 迷宮。魔物が無限に蔓延る場所。悪質なトラップの巣。豪華絢爛な宝物か惨ったらしい死の天秤。


「そう、ダンジョン。その最奥に待ち構え、玉座の間にあるのがその呪物」


 神父は手のひらの上の石を指差す。


「ダンジョンの大きさや規模は、元となった魔王によりますので、手に入りやすい場所のもありますが…」


「では」


「適応出来ない。つまり相性が悪い人達が多いのですよ」


 言いたいことを察しているのか。コチラを遮り、話を進める神父。もう1本の指を畳み、グーになる。


「記憶が読み取れず。ただただ発狂し狂うしかない人達がほとんどです」


 ダンジョンの攻略がどれ程難しいか分からないが。苦労して手に入れた物が使えない、呪いの類の物だとは。報われないだろう。



 俺は運が良かったのだろう。か。

 たまたま適性があり。相性が良かったのだろう。



 本当にそうなのだろうか。



 手のひらの上の黒く綺麗な石を見つめる。ひんやりと丸みを帯びたソレは、まるで目玉の様な。魔王から見られている感じがした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る