第8話 経験者は語る
彼ら、彼女らが元いた世界は。いつでも、どこでも、何度でも。それこそ時間が許す限り知識欲を満たし。好奇心を刺激する様な記憶媒体があった。この魔王の記憶に存在する便利な板。
「さて。どうやって解呪するか、ですが…」
神父がコチラを見ながら話を進め、一息入れ焦らす。おっさんが勿体ぶらないで。
先ほどまで会った威圧感の様なものは薄れていた。一体なんだったのだろうか。
「その呪いの記憶を頼りに、呪物が元にあった場所に戻す。それだけ」
「へ?」
肩透かしにも良いところだ。さっきの貯めはなんだ。まるで子供のお使いみたいじゃないか。
「しかし、旅にはお金が必要です。なのでスポンサー」
ああ、そうか。それはあちらの世界の話。安全が確保されなければ出来ない事だ。
旅費や食料費以外にも護衛が必要だろう。モンスターや盗賊の蔓延るこの世界で一人旅など出来ない。ましてや俺は子供だ。いいカモだろう。
「呪物の親和性が高いと、より正確で高い水準の知識が拾えます。そこから使える情報を抜き取り、それをコチラの技術に落とし込む。なので、スポンサーが付きやすい」
「なるほど、見返りがでかいのですね」
知識を対価に路銀を稼ぐ。そんな感じか。そして、パッチワークになっている知識よりも正確な分、お高く買ってくれる。と。
「先日、王都で発行された新聞を見ましたか?」
神父が言っているのは、月に一度発行される王国直属の新聞社の新聞だろう。王国の周辺国の情報や王族や貴族の活動。誰の領でどんな事件が起きたか。等をまとめた物だ。
変な噂話や貴族のゴシップをまとめた新聞社もあり、とある層に人気だとか。命知らずかな?
「空気よりも軽い気体を使った、空を飛ぶ乗り物が完成したそうです」
水素やヘリウムの事だろう。水素は扱いが難しいガスなんだが。爆発しなかっただろうか。
「そのガスを製造する術。漏れない様に留める技。いずれも時間が掛かりましたが、ようやく再現が出来ました」
「我々の常識では、空気よりも軽いガスなどなかった。ええ、知らなければ無いのと同じですから」
あちらの世界の過去では、空気などは全てエーテルと呼ばれる素材でできていると考えられていた。分子の存在は紀元前から考えられてはいたが、存在を確認、証明出来たのは人間史からしたら、つい最近の事である。
「よって、魔王の知識は高値で買われる」
新聞もそうだ。活版印刷やそれに使われるインク。良質で大量生産が出来る紙なども魔王の知識からだろう。
大衆に向けての情報を操作している点を見ても、政治にも利用されているのかもしれない。
「今の教皇の相談役が、私と旅をした『巡礼者』でした」
「結構な役職に付いているのですね」
「ええ。教会が独占するにはそうするしかありませんので」
結構ヤバい事を言っている。聞いて良かったのであろうか?
「それ。俺が聞いても良かったのですか?」
「ええ。大丈夫です。他の国もやってますので」
王様の相談役とかかな?
「金額に応じて知識は配当されてますので大丈夫ですよ」
知識を配当ってどうやって?
「そして、お金を一番出した人が独占する、と」
「はい。危険な知識もありますので監視も兼ねて」
なるほど。俺の人生も決まった様なもんだな。
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