第6話 一歩一歩お願いします

 駄目だ。情報が多すぎて理解できない。頭が痛い。息も激しくなってくる。足元がおぼつかない。フラフラと頭が揺れる。

 神父はそんな様子の俺に、椅子に座る様に促した。


「一気に喋りすぎたね。ほら、これにお座りなさい」


 部屋の端にあった、背の高くない丸椅子を俺の側に持ってくる。


「ありがとうございます」


 お礼をいいながら素直に座ると。いつの間にか持っていたコップを渡してくるの神父。


「ハーブティーです。コレで落ち着くでしょう」


 温いお茶をすする様に飲むとホッとする。いい香りだ。しかし、心が落ち着いても頭の中はまだ混乱している。何から聞けばいいのか。頭が落ち着く時間が欲しい。


「ふむ…。私はもう少し仕事をします。聞きたい事ができましたら聞いて下さい」


 そんな俺を察したのか、机に向かい書類仕事を始める神父。素晴らしい気配り。コレが出来る男というヤツなのだろう。

 ハーブティーを飲みながら、そんなどうでもいい事を考える。


 だが、今考えるべきは、神父様の話をまとめる事である。


 毎晩見る様になった悪夢をどうにかしたい。

  この石が原因である。


 捨てる事は出来ない。

  この石は呪われているから。


 呪いを解くにはどうすればいい?

  『巡礼』に行けばいい。


 『巡礼』とはなんだ?

   神父様はどうしてそんな事を知っている?



 気持ちを落ち着かせるために、ポケットに入っている黒い石を取り出し見つめる。ツヤツヤで丸みを帯びた綺麗な石だ。よく見たら変な模様がある。まるで『光る泥団子』の様な…。

 まただ。ノイズが。知らない記憶が刷り込まれる。コレは一体なんだ?


「神父」


 いつでも聞いていいと言っていた。ならば聞くしかないだろう。


「はい?なんでしょう」


 何やら書き仕事をしていた手を止めてコチラを見てくる。


「知らない単語が浮かんだり。知らない物が分かったり。なんだか自分が自分じゃ無くなった感じが」


「ふむ、記憶の混濁ですね。思ったよりも速い」


「混濁…。それに速いとは?」


「その石は『魔王の記憶が染み込んでいる』と言いましたよね」


「はい」


 確かに言っていた。


「君の記憶と魔王の記憶が混ざり合っているのです」


 魔王と混ざる!?

 ソレはヤバいヤツでは!?


 思わず立ち上がる。手に持っていたコップが滑り落ちた。幸い中身は飲み干したので床が濡れる事は無かったが。


「それと、速い、は親和性ですね。君はその石と相性が良いみたいですね」


「相性って何ですか!?」


 魔王との相性がいいのか!?

 訳が分からない!?


「相性とは、どれだけ深く記憶を辿れるか。言い換えれば、魔王そのものに近づけるか、ですかね」


 魔王に近づく?魔王になるの?俺が?


「俺は魔王になるのですか?」


「いいえ。魔王にはなりません。ちょっと記憶が混ざっちゃうだけです」


 それなら、まあ、いいか…


 いや、良くないだろ。魔王の記憶なんて知りたくないぞ。


「良いですね。スポンサーが付きやすいですよ」


「スポンサー!?」


「その呪われた記憶をサルベージしたら、文化や技術の発展に繋がりますので」


 神父様。色々と端折りすぎです。出来れば牛歩でお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る